「管理組合の運営」 > 【コンドミニアム裁判所 判例 目次】 > 【役員銃撃事件関連判例 目次】 >ラフォチューン 対 管理組合 判決

(銃撃事件の影響) ラフォチューン 対 管理組合 判決 (No. 2023 ONCAT 168)

管理組合の理事射殺事件が社会に与えた影響

2022年12月18日午後7時20分オンタリオ州トロント郊外ヴォーンのコンドミニアムで管理組合
の理事とその家族 計5人が射殺され、理事長の妻が重傷を負った事件は、その後の一般
管理組合の情報公開のあり方にも動揺を与えました。(本判決の段落[2][3]そして[12]参照)

しかし、カナダのリベラリズム(Liberalism)に対する揺るぎのない信頼は、情報公開への強靭
な回復力(レジリエンス:resilience)を支えていることをわからせてくれる判決です。

なお、わが国においても議事録に発言者氏名を記載するかどうかが問題になるが、詳しくは
「議事録への発言者氏名の記載」 参照

「判決」(DECISION:No. 2023 ONCAT 168) 目次

○ 判決理由 (REASONS FOR DECISION)
○ A.はじめに (INTRODUCTION)
○ B.背 景 (BACKGROUND)
○ C.争点と分析 (ISSUES & ANALYSIS)
    被告は、要求されたすべての記録を提供したか?
      理事会議事録
      管理組合の規則
    管理組合は、規則の適切な記録を保存しているか?
    裁判所は、コンドミニアム管理組合に命じる管轄権を持っているか?
    どのような救済策を誰に向けるべきか?
    科すべき罰 (Penalty)
    理事研修 (Directors’ Training)
○ 
D. 判決 (ORDER)

 

判決理由  (REASONS FOR DECISION)

CONDOMINIUM AUTHORITY TRIBUNAL

DATE:  November 8, 2023
CASE: 2023-00218R
Citation:  Lafortune v. Carleton Condominium Corporation No. 37, 2023 ONCAT 168

Order under section 1.44 of the Condominium Act, 1998.
Member:           Mary Ann Spencer, Member
The Applicant,       Susan Lafortune  Self-Represented
The Respondent,     Carleton Condominium Corporation No. 37
                 Represented by Graeme Macpherson, Counsel
Hearing:  Written Online Hearing August 14, 2023 to October 18, 2023

判決日:       2023年11月8日
事件番号:     2023-00218R
事件名:       ラフォチューン 対 カールトンコンドミニアム管理組合No.37 、2023 ONCAT 168
準拠法令:     コンドミニアム法1998 , 1.44条
裁判官:       メアリー・アン・スペンサー
原告:         スーザン・ラフォチューン (本人弁護)
被告:         カールトンコンドミニアム管理組合No.37  被告代理人 弁護士グレイム・マックファーソン
聴聞:        書面によるオンラインにて2023年8月14日〜2023年10月18日

A.  はじめに (INTRODUCTION)

[1] スーザン・ラフォチューン(以下「原告」)は、カールトン・コンドミニアム管理組合(登録No37)
 (以下「管理組合」または「被告」)の住戸の所有者である。2022年10月、彼女は管理組合に
 管理規約の写しの交付を求めた。その要求に応じて彼女が受け取った記録は「適切、正確、
 最新、または完全」ではないというのが彼女の立場である。
 彼女は、当法廷が管理組合に対し、
  (a) 適切で最新かつ完全な一連の規則を起草することを約束し、
  (b) 理事に追加のトレーニングを受けるよう要求し、
  (c) 罰金を支払うよう命じる判決を求める。
 彼女はまた、原告が支払った当裁判の手数料を被告側から払い戻しを受けることを求める。

[2] ラフォーチュンさんの訴えで提起されたさらなる問題は、管理組合が理事会の議事録で
 理事の名前を抹消すべきではないという彼女の主張である。原告は管理組合にこの慣行
 をやめるよう裁判所が命令を下すことを求める。

[3] 管理組合は、ラフォーチュンさんの申請は却下されるべきであると主張する。
 要求された規則と理事会の議事録の編集されていない写しを提供し、議事録で理事の名
 前を抹消する慣行をやめた。ラフォーチュンさんの事件は、裁判所が管轄権を持たない管
 理組合のガバナンスに関するものであると主張する。管理組合は、この件に関する裁判
 費用の賠償を原告に請求する。

[4] 当法廷は、管理組合が所有している規則の記録をラフォーチュンさんに提供していること
 を認める。裁判官はまた、それが共同住宅法1998第55条1項("法")の規定に違反し、そ
 の規則の適切な記録を保存することに失敗していることを認める。但し、以下に述べる理
 由により、裁判官はこの点に関して命令を下すことはない。管理組合の理事会議事録に
 おける理事名の抹消の問題は解決されており、裁判官はこの問題に関する命令は行わ
 ない。最後に、裁判官はこの件に関して違約金や費用を認定しない。したがって、本件
 訴えは当事者間の費用請求なしで却下されるものとする。

B. 背 景 (BACKGROUND)

[5] 2022年10月20日、ラフォーチュンさんは、管理組合が委託している管理会社の元管理者
 であるメリッサ・コヴィーさんに電子メールで、管理組合の規則の写しを求める記録請求書
 を提出した。同日付の電子メールで、コヴィーさんは管理組合の居住者ハンドブックへの電
 子リンクを送って返答した。ラフォーチュンさんは、ハンドブックを持っていて、2018年の喫
 煙規則の写しを見たが、管理組合の規則がすべて記載された文書を求めていると答えた。

 彼女は2022年11月1日と24日にコヴィーさんにフォローアップの電子メールを送信し、その
 中で、彼女が求めていた包括的な記録も、記録の要求に対する理事会の回答フォームも
 まだ受け取っていないと述べた。これらのフォローアップに対する反応の証拠はない。

[6] 2023年4月1日より、管理組合は新しいコンドミニアム管理会社との契約を継続した。
 2023年4月7日、ラフォーチュンさんはコヴィーさんとの過去のやり取りを「注意喚起のため
 に」管理会社の新しい管理者のタミー・ゾリンジャー氏に転送するメールを送った。
 彼女は2023年4月12日にゾリンジャー氏に2回目のメールを送り、回答の状況を尋ねた。
 ゾリンジャー氏の同日の回答は、理事会は規則を改訂している最中だというものであった。

[7] 2023年4月16日、ラフォーチュンさんは裁判所に訴えを提出した。被告の弁護人は、
 本件は2023年5月5日に提起されたものであり、時期尚早であるため、本件は棄却される
 べきであると提出したことを裁判官は留意する。この提出が2023年9月5日まで行われな
 かったことを脇に置いて、弁護士が第2段階の調停プロセスで被告を代理したにもかかわ
 らず、裁判官は申請が2023年4月16日に提出されたことを確認した。

[8] ラフォーチュンさんの申請は、2023年3月9日の請求と2023年10月20日の請求に関する
 ものであった。また、理事会議事録における理事名を伏せたことについても問題提起した。
 理事会の議事録は、ラフォーチュンさんの記録要求のいずれにおいても要求されなかった。
 それどころか、彼女は、彼女が以前に提起した訴訟を解決した2022年11月11日付けの
 当裁判所の調停同意命令の条件に従って、議事録の写しを入手した。

[9] ラフォーチュンさんの主張は、理事の名前が不適切に編集されたり、彼女が受け取った
 理事会の議事録から削除されたりしたということである。当法廷は、調停同意命令を執行
 する権限を有しない。
 本件では、理事の氏名の訂正は、第2段階の調停で取り上げられ、同意審決の条件が
 問題になっていないことを根拠に、第3段階の当法廷判決手続に持ち込まれた。

C. 争点と分析  (ISSUES & ANALYSIS)

[10] ラフォーチュンさんの裁判所への訴えで提起された問題のいくつかは、この訴訟の
 第2段階の調停中に取り下げ、或いは解決している。第3段階の判決法廷に持ち込まれ
 た問題は、2022年11月11日の調停同意命令に従ってラフォーチュンさんが受け取った
 理事会の議事録と、2022年10月20日の記録請求書に含まれる管理組合の規則の写し
 の要求にのみ関連している。第2段階の概要と順序に示されている問題は次のとおりで
 ある。

  1. 被告は、要求されたすべての記録を提供したか?
  2. 裁判所は、コンドミニアム管理組合に対し、居住者ハンドブックに代わる新しい規
    則を採用するよう命じる管轄権を持っているか?
  3. この場合、どのような救済策を誰に向けるべきか?
  4. 当法廷は費用を裁定すべきか?

 この手続きの過程で、追加の問題が明らかになった。それは、管理組合がその規則の
 適切な記録を保存しているかどうかである。以下の問題については、該当する場合は
 救済策を含め、個別に説明する。

被告は、要求されたすべての記録を提供したか?
(Has the Respondent provided all of the requested records?)

理事会議事録(The Board Meeting Minutes)

[11] ラフォーチュンさんは、2022年11月11日の同意命令に従って受け取った議事録が
 不適切に編集されたと主張する。彼女が提出した証拠は、彼女が最初に受け取った
 管理組合の2023年1月23日と2月13日の理事会の議事録の写しで、動議を行った
 理事と別の理事の名前が編集されていたことを示している。
 2023年4月17日の議事録では、理事の氏名を略称「BoM」に置き換えていた。

[12] この第3段階・判決審の冒頭における予備審の間、管理組合の代理人弁護士は、
 管理組合に、法のs.55(4)の要件に従ってのみ編集される議事録をラフォーチュンさん
 に提供する準備をするようにと助言した。これらは、2023年6月26日に CAT-ODR
 システムにアップロードされた。管理組合の理事会のメンバーである証人ロブ・カー
 ワン氏も後に証言したように、代理人弁護士は、管理組合に議事録で理事の名前
 を編集する慣行をやめるよう助言した。カーワン氏は、この慣行は、コンドミニアム
 区分所有者が役員を射殺するという悲劇的な事件が広く報道された後、他の管理
 組合で導入した事例を新しいコンドミニアム管理会社の推薦で採用したと説明した。

[13] ラフォーチュンさんは、管理組合が今、すべての議事録の未編集の写しを彼女に
 提供したと主張した事に異議を唱えている。具体的には、2023年3月13日の会議
 の議事録には理事の名前が含まれていないことを指摘し、「編集の通常の意味が
 情報を検閲または省略することであると仮定すると、これらの議事録には根拠のな
 い編集が含まれている」と主張する。
 管理組合は、議事録が編集されたことを否定している。

[14] 裁判官が2023年 3月13日の議事録を確認したところ、編集されていないことが
 判明した。むしろ、前回の会議の議事録の承認と年次総会議案書という2つの議題
 については、「動議が提出された.」と述べている。理事を指名することなく、動議が
 全会一致で承認されたことを述べている。ラフォーチュンさんは、議事録には2つの
 動議を提出した理事の名前が含まれていないため、議事録が十分に詳細ではない
 として議事録内容に関する疑いを主張する。2022年11月11日の同意審決は、管理
 組合の理事会の議事録に必要な内容に対応している。当裁判所第2ステージの合
 意命令の第2項は次のように述べている。

  管理組合は、これらの会議中に記録された議事録は、区分所有者がどのような
  決定が下されたか、これらの決定の背後にある理論的根拠、決定がいつ行われ
  たか、および決定の財政的基盤(該当する場合)を理解できるように、詳細で整理、
  され十分であることに同意する。

 ラフォーチュンさんの問題はデ・ミニミス(訳注:de minimis:重要性を欠く :無視に値
 するほど軽微なもの、カナダでは、刑事犯罪が予備段階で成立するかどうかの基準
 として、刑罰を与えるほどの罪ではないという意味でde minimisがよく使用される。)
 のように見えるが、もし彼女がそれを追求したいのであれば、別の場所で追求する
 必要がある。当法廷は、同意命令を執行する権限を有しない。これらは、高等裁判
 所によって執行可能である。

[15] 管理組合は、理事の名前を編集せずに理事会の議事録の写しをラフォーチュン
 さんに提供した。したがって、裁判官はこれらの記録に関して命令しない。

管理組合の規則 (The Rules of the Corporation)

[16] その証拠に、ラフォーチュンさんは、管理組合の居住者ハンドブック(2020年9月更新)
 の写しへの電子アクセスを、彼女が管理組合の規則の写しの要求を提出したのと同じ
 日に提供された。ハンドブックのセクション37は「当管理組合の基準と明細事項」
 (“CCC37 Standards and Specifications”.)と題されている。
 しかし、下記のコヴィーさんへの電子メールの返信が示すように、ラフォーチュンさんは、
 ハンドブックは彼女の要求に応えていないと考えている。

   私は私たちの公式で合法的な管理組合の規則と細則を探していました。
   私はハンドブックを持っていますが、それは簡略化された形式の情報冊子にすぎま
   せん。2018年に施行された喫煙規則を見たのを覚えていますが、残りの部分を探
   していました。ハンドブックに喫煙ルールは見当たりませんが、私たちのルールを
   すべて含む法的文書がどこかにあると思います。

[17] 「ようこそわが家へ( “Welcome Home)」というタイトルの下に、居住者ハンドブック
    (Residents’ Handbook) には次のような序文がある。

   この小冊子は、あなたの管理組合の所有者および管理組合の利害関係者として
   あなたに影響を与えるいくつかの重要な事項についてあなたにお知らせするため
   にあなたの理事会によって作成されました。詳しくは、コンドミニアム宣言書、当管
   理組合の規約、細則等をご覧ください。あなたの弁護士はあなたが住戸を購入した
   ときにこれらの完全な写しを提供するべきです。

 上記のパラグラフは、管理組合が「規則と細則」の別の記録を持っていることを暗示し
 ているが、カーワン氏は、居住者ハンドブックは、管理組合の「拘束力と強制力のある
 規則として普遍的に見なされ、扱われている」と証言した。管理組合の喫煙ルール
 は、2018年に独立したルールとして可決されたため、ハンドブックには含まれてい
 ないと説明した。彼はさらに、「理事会は、他の規則やさらなる規則を見つけるために、
 物理的およびオンラインの両方の記録を検索した。これ以上のルールは存在しない。
 と回答した。この手続きの中で、ラフォーチュンさんとカーワン氏の両者は、2023年
 6月に採択された規則集に言及したことに留意する。しかし、これらはラフォーチュン
 さんの記録要求より後の日付であるため、本件では問題にならない。

[18] カーワン氏は、2022年10月20日にコヴィー氏が記録の要求に回答した際に、
 2018年の喫煙規則の写しがラフォーチュンさんに提供されたことを理解したと証言した。

 彼はさらに、すべての規則と記録の要求に対する理事会の回答フォームは、この問題
 の調停中に2023年6月26日に提供されたと証言した。2023年8月26日にCAT-ODR
 システムにアップロードされるまで、喫煙規則の写しを受け取らなかったというのは
 ラフォーチュンさんの証言である。

[19] ラフォーチュンさんは、「公式のコンドミニアム規則と細則」の統合された写しを受け
 取っていないため、管理組合の規則のすべてを受け取ったことに異議を唱えている。
 さらに、2022年秋/冬ニュースレターに記載された車両や換気扇の周りの積雪に関
 する規則や、2022年10月に所有者に送られた通知に含まれる駐車場通行に関する
 要件について、彼女が言うところのものの写しを受け取っていないと証言した。

 彼女は、上記の要件は、管理組合が規則を作成、修正、または廃止するために従わ
 なければならないプロセスを定めた法律の58条に従って作成されていないと主張する。
 さらに、それらが規則でない場合は、所有者にそのように提示されるべきではなかった。

[20] ラフォーチュンさんは2022年秋/冬ニュースレターと2022年11月に区分所有者に
 送付された通知を確認した。どちらも、ラフォーチュンさんが強調した要件が規則である
 とは述べていない。実際、2022年秋/冬のニュースレターでは、「コミュニティで許可され
 ていること、許可されていないこと」に関する情報が必要な場合、所有者に居住者ハンド
 ブックに立ち返るように勧めています。

 例えば、ラフォーチュンさんが受け取っていない新しいルールの例として挙げた積雪
 要件では、所有者は「一晩中」車周りの雪かきをしなければ、車両をけん引される
 リスクがある。ニュースレターは、居住者ハンドブックの付録Cに含まれる駐車規則
 を所有者に紹介している。

[21] また、2014年版の居住者ハンドブックの文言と2020年版の文言を比較し、内容が
 変更された箇所を強調した詳細な提出物を提供した。「基準と明細事項」のセクション
 だけが、本件訴訟事件に関連している。
 彼女は、そのセクションへの変更は、法の第20条に従って行われたものではないことを
 主張する。しかし、これは事実かもしれないが、ラフォーチュンさんの議論はコーポレート
 ガバナンスに関するものである。管理組合が法律上の要件に従わずに規則を改正した
 かどうかは、管理組合が2022年11月20日の記録要求に対応するすべての記録を提供
 したかどうかという問題とは関係がない。

[22] 裁判官は、2022年11月20日の記録請求に対応して、管理組合が保有する規則の
 唯一の記録、すなわち居住者ハンドブックと2018年の喫煙規則の写しをラフォーチュン
 さんに提供したというカーワン氏の証言を受け入れる。ラフォーチュンさんが想定してい
 るように、規則をひとつの「法的文書」に統合するという法的要件はない。したがって、
 管理組合はラフォーチュンさんが要求した記録を提供したことを認める。

管理組合は規則の適切な記録を保存しているか?
(Is CCC37 keeping adequate records of its rules?)

[23] 同法第55条(1)は、管理組合が宣言書、管理規約、細則の写しなど、適切な記録を
 保存する(to keep adequate records,)ことを要求している。
 「適切("adequate")」という言葉は、法律では定義されていない。
 In McKay 対. Waterloo North Condominium Corp. No. 23, 1992 CanLII 7501 (ON SC),
 の判決でCavarzan判事は、いくつかのガイダンスを提供している。

   この法律は、管理組合に適切な記録を保存することを義務付けている。
   その義務は何のためにあるのか? 人はそれを聞きたいと思わざるを得ない。
   この法律を検討すると、いくつかの答えが提供される。管理組合の目的は、
   管理組合の財産および資産を管理することである(第12条(1))。

   管理組合には、管理組合の共用部と資産を管理し、運営し、そして執行する義務が
   ある(s.12(2))。(It has a duty to control, manage and administer the common
             elements and the assets of the corporation (s. 12 (2)).)

   区分所有者は法律、宣言書、管理規約、使用細則を遵守する義務がある(第12条(3))。
   各所有者は、法律、宣言書、管理規約、使用細則によって指定された管理組合の義務
   の履行に対する相関的な権利を享受している。したがって、管理組合の記録は、その
   義務と責任(duties and obligations)を十分に果たすために適切でなければならない。.

[24] ラフォーチュンさんは、管理組合の規則は不適切(inadequate)であると主張する。
 パラグラフ[21]で述べたように、2020年版の居住者ハンドブック (Residents’ Handbook)
 の「基準と明細事項」(“Standards and Specifications”)のセクションの複数の領域が
 2014年版から変更されていることを強調し、それらが同法第58条に従って作成されて
 いないことを指摘し、したがって、その有効性と執行可能性に疑問を呈した。
 例えば、2020年版では、所有者が裏庭に植樹を行う前に、理事会への申請と承認が
 必要であるという規定が盛り込まれている。この規定は2014年版には存在しない。

 さらにラフォーチュンさんは、情報や助言のみを提供するよう提案した分野に焦点を当て、
 たとえば、暖房機に関するセクションでは、所有者は暖房機のメンテナンスに責任がある
 と述べているが、暖房機を毎年メンテナンスすることが安全な慣行であると所有者にアド
 バイスしている。

 彼女はさらに、内容の一部が管理組合の管理規約(by-laws)と矛盾していると主張する。

 最後に、ラフォーチュンさんは、この文書の表現は本質的に「法的強制力(mandatory)」を
 意味していない、すなわち、「..しなければならない(must)」や「..するものとする(shall)」と
 いう言葉は含まれていないと主張した。彼女の立場は、これらの疑惑の欠陥が規則を
 不適切にしているというものである。

※訳注: 法律の条文で用いられる must と shall の使い分け
 mustは「...しなければならない」という「義務・必要」の意味と「きっと・・だろう」「・・のはずだ」
 という「推量」の意味があるが、法律の条文では前者の意味で用いられる。must not は「・・
 してはいけない」という「禁止」を意味する。mustは「現在」の「義務」についての規定です。
 must は法律の条文でしか使われない硬い表現なので、口語ではhave to を使います。
 (この場合の発音は、[hævtu] ではなく [hæftu] と発音することに注意して下さい。)

 shall は「...するものとする」という意味の古めかしい言葉で、shall のもつ「未来」の意味は、
 「その効力は未来に及ぶ」という意味です。提案の表現のShall I や Shall we 以外では
 法律や契約書でしか使われないのは、will のような日常語にはない威厳や格調の高さ
 を感じさせるからです。
 (和文) 日本国憲法第一条「天皇は日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴である。」
 (英訳) The Emperor shall be the symbol of the State and of the unity of the people.

※訳注: 法律の条文で用いられる will と will not [won't] の意味
 単純未来を表わす will は英和辞典や参考書で「・・だろう」と訳されてますが、will は主語の
 確定的な「意思・意図」を表わしているので、法律文では「・・とする」「・・である」という意味
 で用いられます。同様に否定形の will not は「(未来において)・・しない」という意味に
 加え、「絶対に、どうしても・・しない」という強い拒絶・固執を表わすこともあります。
 will も主題の意思を表わす硬い表現なので、口語ではbe going to を使います。


[25] 被告の弁護人は、規則は適切であり、「居住者ハンドブック」の中に書かれている規則の
 説明が制定時の条文よりも詳細を欠いていたとしても、それは規則を無効にしたり、不十分
 にしたりするものではない」と主張する。
 彼は、Rahman 対. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2021 (※2 )
 ONCAT 32 (CanLII)における裁判所の判決を引用し、判決では、規約規定が詳細を欠いて
 いるにもかかわらず、管理組合の規約は適切であると認定した。同氏は、ラーマン氏の場合
 と同様に、管理組合の規則は「25年間実施されており、すべての所有者と居住者に専有部
 住戸と共用部に関する行動指針を提供している」と主張した。

(※2 訳注) この判決は当Hpの (3) 【判決】組合文書の訂正要求、訴えの却下 に掲載してます。
       (本事件と似たような裁判で、本判決は上記引用判決文と同じ構成をとっています。)

[26] 居住者ハンドブック(Residents’ Handbook)の「基準と明細事項 (Standards and
  Specifications)」セクションの序文には、次のように記載されている。

   以下の項目は、主にコンドミニアムの運営方法を規定する法的文書から抜粋した
   アルファベット順です。そのうちのいくつかは法律の要件ですが、それらのほとんどは、
   長年にわたって当コンドミニアムが作成した規約、細則、または総会決定に基づいて
   います。

 ハンドブックは、どの「基準と明細事項」が、法律または管理組合の宣言書や規約から
 引き出されたのか、管理組合が採用した規則なのか、それとも管理組合の「決定」を表す
 のかを示していない。

 カーワン氏の証言は、管理組合がすべての条項を強制力のある規則と見なしているという
 ことである。彼は、ラフォーチュンさんが法廷に申請を提出する前に、誰もこれに疑問を呈
 していなかったと証言した。

[27] 共同住宅法119条(3)項は、管理組合の義務は、その管理文書の遵守を強制することで
 あると規定している。ラフォーチュンさんは、ハンドブックの特定の規定が法第58条に従って
 作成されたかどうかについてカーワン氏に質問した。彼はさらに、「ハンドブックの大部分は、
 管理組合の宣言書と規約及び細則に定められた義務と要件の言い換えで構成されている」
 と証言した。

 本件が提起される前にハンドブックに疑問を呈していなかったというカーワン氏の証言にも
 かかわらず、管理組合は、基準および明細事項に関して、実際に採用された時点における
 引用規則の根拠と制定時期の記載がない場合、その根拠明示執行義務を果たすよう異議
 を唱えられる可能性がある。

[28] 管理組合のもう一つの法律上の責任は、所有者の記録の開示要求に応じることである。
 上記のパラグラフ[17]で述べたように、カーワン氏は、管理組合がその規則について現物の
 紙記録およびオンライン記録の検索を行い、ハンドブックと2018年の喫煙と2023年のプール
 規則以外は何も見つからなかったと証言した。規則の調査が単独で行われたという事実は、
 管理組合が適切な記録を保存していなかったことを示している。

[29] 裁判官は、管理組合が法第55(1)で規定されている適切な記録を保存していないことを認める。
 ラーマン事件の判決では、規約に関する詳細の欠如をもって管理組合の規則を不適切とみなす
 事は認めなかったことから、被告側はラーマン事件判決と本件との比較を要請したが、裁判官は、
 その要請を却下する。

 裁判官はまた、「原告は、規則は、本事例に関連する唯一の形式的要件である法律によって
 要求されているようには制定されていないことを指摘する証拠を提供しなかった」ことに留意する。

 管理組合が居住者ハンドブックのすべての条項を強制力のある規則と見なしているというカーワン氏
 の証言にもかかわらず、「基準と明細事項」がさまざまな情報源から引き出されたことを示している
 という事実は、どの条項がどの情報源から来ているかを特定していないという事実、及び、
 管理組合が「ハンドブックの中の規則」がどのように採用されたかについての証拠を持っていない
 というカーワン氏の証言と相まって、 裁判官は、管理組合の記録はその義務と義務を果たすのに
 十分ではなく、管理組合は規則を承認するための立法プロセスに基づいていないことを認める。
 これは、管理組合が従った規則承認プロセスの記録がないという証言に基づいている。

[30] 管理組合は1974年6月に登記された。当時の共同住宅法(Condominium Act)では、
 管理組合は適切な記録を保存(keep adequate records)することは求められていたが、
 どの記録を保存しなければならないかの規定はなく、現行法が制定されるまでは、
 管理組合の法定保存記録リストは制定されていなかった。

 現行法では共同住宅法第55条(2)項及びオンタリオ州法48/01(訳注:共同住宅法施行令:
 Condominium Act, 1998の施行細則と手続きを定めたRegulation 2017年11月1日制定)
 の13.1(2)項により、最低保存期間(The minimum records retention periods)が規定されて
 いる。それ以前は、財務記録とステータス証明書(financial records and status certificates)
 の保存期間のみが指定されていた。現在、共同住宅法施行令:O. Reg. 48.01の13,1 (2)2項
 では、管理組合がその規則の記録を「永久保存( “at all times”)することを規定している。

[31] この法律は、規則の適切な記録を構成するものを指定していない。しかし、管理組合は、
 同法とその管理文書を遵守する義務を負っていることを考えると、規則自体だけでなく、それら
 の規則が制定された過程の記録も、その有効性の文書として保存する必要があるのは当然で
 ある。管理組合の事業年数を考えると、特に記録保存要件規則が制定される前に「基準と明細
 事項」の項目のいずれかが制定された場合、完全な記録がない可能性があることは理解できる。

 したがって、裁判官は管理組合に、既存の規則のより完全な記録を作成するよう命じることはしない。
 裁判官は、管理組合に対して、将来制定、修正、廃止するすべての規則を包括的に記録するよう
 助言しておく。同法第55条第1項は、管理組合に適切な記録を保存することを義務付けており、
 管理組合が2018年の喫煙規則に関してその義務を履行しているという証拠があるため、
 裁判官はこの点について命令を下さない。

裁判所は、コンドミニアム管理組合に居住者ハンドブックに代わる新しい規則を採用
するよう命じる管轄権を持っているか?

 ( Does the Tribunal have jurisdiction to order the Condominium Corporation adopt new rules
  to replace the Residents’ Handbook?)

[32] ラフォーチュンさんは、法廷が管理組合に「適切で、最新で、完全な」一連の規則を起草する
 ことを約束するよう命じるよう要請している。

[33] 当法廷の管轄権は、オンタリオ州規則179/17(訳注:O. Reg 179/17はコンドミニアム裁判所
 (CAT) の権限と運営管理規定)を定めたコンドミニアム裁判所規則)で規定された管轄権はペット、
 車両、駐車場、倉庫での禁止及び制限事項、またはその他の方法で管理する記録および管理文
 書の規定に関する特定の紛争、および個人への禁止事項、迷惑行為、または混乱に関する紛争
 に限定されている。オンタリオ州規則179/17は、管理組合の規則制定権限を確立する法の第58
 条および規則を作成、修正、または廃止するために従わなければならないプロセスを確立する管
 轄権を裁判所の権限として提供していない。

[34] ラフォーチュンさんの訴訟は棄却されるべきであると主張するにあたり、被告の弁護人は、
 原告が第3段階の法廷判決手続きへの移行を要求した時点で当裁判所が却下したカルデロン
 事件No.274,2021 ONCAT 80(CanLII) Calderon v. York CondominiumCorporation の判決を
 裁判官に提示した。この裁判の原告は、管理組合の規則の2つの写しを持っていて、規則が
 不十分であり、2つのセットの違いは、管理組合が法律を遵守していないことを示していると
 主張した。この判決のパラグラフ[6]で、判決は次のように書いている。

   原告はさらに、管理組合が規則を改正するための正しいプロセスに従わなかったと主張して
   いる。コンドミニアムの規則を承認するプロセスをめぐる紛争は、通常、CATの現在の管轄外
   である。原告が説明したように、この問題は、オンタリオ州規則179/17に規定されているよう
   に、法廷の管轄外である。

[35] 当法廷は、規則が立法上の要件に従って作成されたかどうかを判断することを含む事件を
 審理するが、これらの事件はO. Reg. 179/17が審理する管轄権を付与している特定の紛争の
 文脈にある。たとえば、管理組合は、犬の体重が規則に定められた体重制限を超えているため、
 飼い主が犬を敷地内から永久に排除する命令を求める訴訟を起こす場合がある。当法廷は、
 関連する規則が法第58条(2)で要求されているように「合理的」ではないと判断するかもしれない。
 しかし、当法廷は、同法に従って作成されていないと判断した規則の改正を管理組合に命じる
 権限を有していない。これは、管理組合のガバナンス上の決定事項である。

[36] カルデロン事件と同様に、ラフォーチュンさんは、管理組合の規則が法律上の要件に従って
 作成されたかどうかに異議を唱えている。彼女はまた、それらが完全または最新であることに
 挑戦している。彼女は、法廷が管理組合に一連の規則の起草を約束するよう命じることだけ
 を求めているが、規則制定は、それらの規則が草案であるか、それらを形式化する意図のある
 最終形式であるかにかかわらず、法廷が管轄権を持たない管理組合のガバナンス責任である。

この場合、どのような救済策を誰に向けるべきか?
( What remedies if any should be directed in this case and to whom? )

[37] ラフォーチュンさんは、管理組合に一連の規則を起草するよう命じることに加えて、裁判官が
 管理組合に罰金を支払うよう命じ、その理事に追加のトレーニングを受けるように命じるよう要求
 している。

科すべき罰 (Penalty)

[38] ラフォーチュンさんは、管理組合の理事会に「より多くの注意と勤勉さ」を適用し、「記録に関
 する法的義務にもっと注意を払う」ことを思い出させることを根拠に、法廷が「実質的な」罰則を命
 じるよう要求した。彼女は、彼女が理事会の過失であると主張する多くの例を挙げて要求している
 が、そのうちのいくつか、たとえば、コンドミニアム管理会社の名前がオンタリオ州のコンドミニアム
 庁の登記所で更新されるまでに30日かかった事などは当法廷の裁定権限の範囲外である。

[39] この法律は、管理組合が合理的な理由なしに要求された記録の提供を拒否した場合にのみ
 罰則を規定している。同法第1.44条第1項第6項には、次のように規定されている。

   第55条(3)に基づく紛争に関する訴訟の当事者である管理組合に対し、合理的な理由なく、
 その者が同項に基づく複写物の閲覧または取得を拒否したと当法廷が判断した場合、同項に
 基づく複写物を審査または取得する権利を有する者に、法廷が適切と考える罰金を支払うよう
 指示する命令。

[40] 管理会社の元管理人は、ラフォーチュンさんが記録の要求を提出したのと同じ日に、
 居住者ハンドブックへの電子リンクをラフォーチュンさんに提供した。しかし、ラフォーチュンさん
 は、この事件が進行するまで、喫煙規則や記録の要求に対する理事会の回答フォームを受け
 取らなかった。O. Reg .48 (01) のセクション13/3(6)では、理事会は記録の要求を受け取ってか
 ら 30日以内に応答しなければならないと規定している。

 過去の判決において、当裁判所は、記録の提供の大幅な遅延は、記録の提供に対する実質的
 な拒否であると判断している。裁判官は、記録の要求フォームに対して理事会が回答しなかった
 場合のペナルティがないことに留意する。

[41] 罰則の目的のひとつは、管理組合が法第37条に基づく義務を果たすためのインセンティブ
 として機能することである。管理組合の理事会は、記録の要求に対応するためのプロセスが整
 っていることを確認するだけでなく、そのプロセスが守られていることを確認する責任がある。

 カーワン氏は、管理組合の理事会は、法廷への申請の通知を受け取るまで、ラフォーチュンさん
 の記録要求に気づいていなかったと証言した。これは明らかにプロセスの失敗を物語っている
 が、カーワン氏はまたラフォーチュンさんが要求した「時期」に、理事会は管理会社の管理者か
 ら定期的または完全な更新を受け取っていないことを懸念するようになったと証言した。

[42] 証拠は、管理組合が区分所有者の要求について知らされていなかったこと、および
 管理組合がその義務を果たすためにそれらを取得する努力をしていたことを裏付けている。

 2023 年1月23日、管理組合理事長であるビッキー・タイトさんから、その管理会社に電子メール
 が送信され、その中で彼女は理事会の懸念を表明し、所有者の要求のリストを提供するよう
 求めた。彼女は特に、記録の要求と、これらが処理されなかった場合の管理組合の潜在的な
 責任についての懸念を提起した。

 管理会社の回答は新しい記録の要求はないというものであった。2023 年1月23日の理事会の
 議事録によると、理事会は提供される管理サービスのレベルに関する懸念について話し合った
 とのことである。2923年2月13日の議事録には、理事会が過去2か月間に個々のメンバーが
 入手した新しい管理会社の提案を検討し、既存の管理会社の契約の終了を承認したことが
 記録されている。

[43] また、2923年4月12日にラフォーチュンさんから電子メールが送られてきて、「法的、公式な」
 規則を求めており、記録要求書に対する理事会の回答をまだ受け取っていないと忠告されたと
 き、ゾリンジャーさんは追加の記録を提供しなかったことを認識している。それどころか、
 ゾリンジャーさんは、理事会が規則の草案に取り組んでいると知らされていたと答え、おそらく
 ラフォーチュンさんが統合された記録を求める要求を理解したのだろうと答えた。

 ラフォーチュンさんが2023年4月17日に転送した書簡から、彼女が居住者ハンドブックを持って
 いて、喫煙規則を見たことが示されていることを考えると、この反応は不合理ではないと認め
 られる。

 2023年4月1日に管理組合で雇用を始めたゾリンジャーさんをフォローアップするのではなく、
 ラフォーチュンさんは裁判所に訴状を提出した。

[44] 記録の要求に対する認識の欠如は、それ自体が記録を提供しないことの合理的な言い訳
 にはならない。理事会は、管理会社の管理者を監督する責任がある。しかし、このケースでは、
 管理組合は、最終的に管理会社からの受け入れられないサービスであると判断したものに対
 処するために行動を起こしていた。さらに、ラフォーチュンさんの要求は、彼女が提出したその
 日にほぼ満たされていた。この場合の特定の状況では、裁判官は罰を与えない。

理事研修 (Directors’ Training)

[45] 彼女が罰則の要求をサポートするために提供したのと同じ理由で、ラフォーチュンさんは、
 理事会は記録だけでなく、法律全般に関しても訓練を必要としていると主張し、判決で
 そのように命令するよう要求した。

[46] 裁判官はその命令を下さない。裁判官は、管理組合がその規則の適切な記録を保存
 していないことを発見したが、その不十分さは、その歴史的慣行に関連しているようである。

 その証拠に、この管理組合は、最近採用された規則の適切な記録を持っている。また、区分所
 有者の記録要求に関する規制要件に対する体系的な理解の欠如を示す証拠もない。むしろ、
 管理組合がラフォーチュンさんの記録要求に完全に応答しなかったのは、管理組合が対処した
 管理組合の以前の管理会社の問題に直接関係していることがわかった。

法廷は費用を裁定すべきか? (Should the Tribunal award any costs?)

[47] ラフォーチュンさんは、ステージ2(調停)からステージ3(判決審)にこの問題を移行する
 ために支払った法廷手数料の125ドルの払い戻しを要求している。管理組合は、弁護士費用
 と支払いで構成される11,974.55ドルの費用を要求している。

[48] コンドミニアム裁判所実務規則(Tribunal’s Rules of Practice)の48.1および48.2は
    次のように述べている。
   48.1 事案が和解契約または同意命令によって解決されず、CATメンバーが最終決定を
      下した場合、CATメンバーが別段の決定をしない限り、敗訴した当事者は、成功した
      当事者のCAT料金を支払う必要がある。
   48.2 CATは、通常、一方の当事者に対し、訴訟の過程で発生した弁護士費用または
      支払い(以下「費用」)を他方の当事者に弁済するよう命じることはない。ただし、適切な
      場合、CATは、当事者に対し、不合理な行為、不適切な目的で行われた行為、または
      遅延もしくは追加費用の原因となった行為に直接関連する費用を含む、費用の全部
      または一部を他の当事者に支払うよう命じることができる。

[49] 管理組合は、ラフォーチュンさんが法廷の手続きを不適切な目的で利用したため、
 訴訟費用が払い戻されるべきであると主張する。「記録の要求を装って、ラフォーチュンさんは
 事実上、管理組合に新しい規則を採用させ、同意命令によってすでに解決された以前の問題
 を再主張させようとしている」と主張している。

 管理組合の弁護人は、ラフォーチュンさんが申請で提起した問題は、法廷への申請の対象と
 なった2つの記録請求で要求した記録を受け取っていたことを含め、第2段階の調停で取り
 下げられたか、または対処されたため、この問題を判決裁定に移す必要はなかったと主張する。

[50] ラフォーチュンさんが提示したケースのいくつかは、この法廷が管轄権を持たない
 コーポレートガバナンスの問題に関するものであった。たとえば、管理組合が法律上の要件
 に従わずに新しい規則を作成したかどうかである。彼女は、第3段階の判決審手続で開示さ
 れるまでは、2018年の喫煙規則を受け取っていなかったとして疑義を呈したにもかかわらず、
 彼女が要求した記録を管理組合が彼女に提供しなかったという彼女の主張は、それらの記
 録が何を含んでいて、何が含まれていなかったかについての彼女の主張であり、それらの
 妥当性に関する彼女の議論も同様であった。

 彼女がペナルティとトレーニングを要求した理由には、裁判官の目の前の記録の問題以外
 の理由が含まれていた。さらに、被告の弁護人も指摘したように、彼女が質問した反対
 尋問の内容の多くは、本事件で決定されるべき問題とは無関係であった。

[51] ラフォーチュンさんの提出書類は必要以上に長く、管理組合と法廷の双方が、
 彼女が特定の記録関連の問題に焦点を合わせた場合よりも、検討に多くの時間を費やし、
 管理組合のケースでは対応に時間を費やす必要があった。管理組合の弁護人は、
 ラフォーチュンさんが「これらの無関係な主張を追求することは、彼女に対して費用を追及
 することになるだろうと何度も警告した」と主張している。

 これらの警告は、第2段階の調停中に行われた可能性があるが、裁判官は必ずしも
 それについて知らない。しかし、裁判官は、法のs.55(1)とs.58(2)の法の違いをラフォー
 チュンさんに説明し、裁判官は彼女の主張は、この問題で決定される問題に焦点を
 当てるように要求した。

[52] ラフォーチュンさんの焦点は、主にこの法廷の管轄外の問題、つまり、管理組合に規則を
 書き直させるという彼女の要求であったにもかかわらず、裁判官は、原告が提示した理由の
 全てではないにしても、管理組合がその規則の適切な記録を保存していないことを発見した。

 裁判官はこの点に関して何の命令もしていないが、ラフォーチュンさんが彼女の申請により
 部分的に成功したことは議論の余地がある。しかし、前2項に定める理由により、裁判官は
 裁量権を行使しており、ラフォーチュンさんの手数料の払い戻しを命じるつもりはない。

[53] また、被告の請求費用は認められない。管理組合は、本件への対応に相当額の弁護士
 費用を負担しており、その中には、ラフォーチュンさんが提案した反対尋問の質問に対して
 弁護人の検討が必要であったと主張しているものを含め、大部分は不必要であった可能性
 が高いと認識している。しかし、裁判官はその時間が費用の裁定を正当化するのに十分な
 ほど重要だったとは思わない。

 また、ラフォーチュンさんが不適切な目的でこの訴訟を起こしたとは思わない。彼女の主張は、
 彼女が管理組合のガバナンスについて懸念を抱いていることを非常に明確にしているが、
 2018年の喫煙規則が規定期間内に彼女に提供されなかったことを考えると、罰則の問題と
 同様に、規則の記録の妥当性の問題は合法的に裁判官の判断に任せられるものである。

[54] ラフォーチュンさんは、この件で本人弁護した。彼女の主張はガバナンスの問題に迷い
 込んでいたが、彼女が法律の専門家ではないことを考えると、これはある程度理解できる。
 管理組合が負担した弁護士費用は、最終的にはラフォーチュンさんを含むすべての所有者が
 負担するものと認識している。
 彼女はさらなる訴訟を起こすことを検討しているかもしれないが、このことを心にとどめて欲しい。

D. 判決(ORDER)

[55] 本件訴えを却下する。当事者双方の費用の請求は認めない。

裁判官 メアリー・アン・スペンサー (Mary Ann Spencer)
公開日: 2023年11月8日(Released on: November 8, 2023)


(以上 マンションNPO 訳)       (2023年12月5日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 5 December 2023/ Revised Publication -time to time)


  「議事録への発言者氏名の記載」 (区分所有法の見直しと議事録の公開)

区分所有法の見直しに向けて、経団連、(一社)不動産協会、国交省、法務省などが
「一般社団法人金融財政事情研究会」のもとで「区分所有法制研究会」を発足させ、
第1回(令和3年3月31日)〜第19回(令和4年9月16日)の開催を経て令和4年9月30日
「区分所有法制に関する研究報告書」を公表したが、この会議の議事録では発言者名の
公表はされなかった。この研究会は次の「法制審議会区分所有法制部会」に引き継がれた。

令和4年(2022年)10月28日開催「法制審議会区分所有法制部会第1回会議 議事録」
[p6]で同会議の幹事・法務省大臣官房参事官 大谷 太氏が最初に説明しています。

○「法制審議会の部会の議事録における発言者名の取扱いにつきましては、かつては
発言者名を明らかにしない形で、逐語的な議事録を作成していた時期もありましたけれ
ども、平成20年3月に開催された法制審議会の総会におきまして、それぞれの諮問に
係る審議事項ごとに、部会長において部会委員の意見を聞いた上で、発言者名を明ら
かにした議事録を作成することができるという取扱いに改められております。

御参考までに申し上げますと、この総会の決定後に設置された民事法関係の部会では、
いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。したがいまし
て、この部会の議事録につきましても、発言者名を明らかにしたものとするかどうかを御
検討いただく必要があるのではないかと思います。」

○佐久間部会長 「ありがとうございました。それでは、ただいまの大谷幹事からの説明につ
きまして、御意見、御質問がございましたら、お願いをいたしたく存じます。いかがでしょうか。
特によろしゅうございますでしょうか。では、当部会でも、審議事項の内容に鑑みまして、
発言者名を明らかにした議事録を作成することとしたいと存じます。」


(2023年12月5日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 5 December 2023/ Revised Publication -time to time)