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ヴィリ 対 カミレリ他 事件 判決(No. 2022 ONSC 4561)

管理組合の理事を訴えた原告が、被告の理事3人とその家族2人を射殺した事件の背景

オンタリオ州トロント郊外ヴォーンのコンドミニアムに住む本件原告フランチェスコ・ヴィリは、 2020年12月15日,管理組合の理事6人を被告として提訴したが、2022年8月4日 判決で請求は棄却された。

その4ケ月後の2022年12月18日午後7時20分頃、 ヴィリ(73歳)はコンドミニアム内で理事会メンバーの住戸を襲い、 本件被告の理事リタ・カミレリ(57歳)、ナヴィード・ダダ(59歳)、ラッセル・マノック(75歳)の3人、更に リタ・カミレリの夫ヴィットリオ・パンツァ(79歳)、ラッセル・マノックの妻、ロレイン・マノック(71歳)の計5人を射殺、 理事長ジョン・ディ・ニーノの妻(66歳)も撃たれ重症。
その後、ヴィリは駆けつけた警官によって射殺された。


York Region Standard Condominium No.1139
Jane Street Vaughan, Ontario

(訳注): 訴訟係属前の裁判長の訴状審査は訴状の形式的審査しかできないから、
訴訟要件の欠缺や請求の理由のないことが明らかな場合でも、裁判長は訴えを却下し
或いは請求を棄却することはできず、訴状が形式的に適法であれば、被告に訴状を送達
して当事者に攻撃防御の機会を保障し、受訴裁判所として判決手続きを経て不適法却下
もしくは請求棄却の判決で処理することになる。本件はその事例です。


「判決」(No. 2022 ONSC 4561) ENDORSEMENT 目次

○ 事件の当事者 (DIVISIONAL COURT FILE)
○ 判決 (ENDORSEMENT)
○ 争点と背景 (The Claim and Background to the Claim)
○ 訴状審査と関連原則 (Legal Test and Related Principles)
○ 法と分析 (Law and Analysis)

 

判決 No. 2022 ONSC 4561 COURT FILE NO.: CV-20-00003736

CITATION : Villi v. Camilleri, 2022 ONSC 4561
COURT FILE NO. : CV-20-00003736
DATE. : 20220804

SUPERIOR COURT OF JUSTICE ONTARIO
RE:
       Francesco Villi. Plaintiff
         AND
         Rita Camilleri, Dino Colalillo, Naveed Dada, Russell Manock, John Di Nino, and
         Patricia De Sario, Defendants
BEFORE:  Justice J. Di Luca
COUNSEL: Francesco Villi, on his own behalf
          Tim Gillibrand, for the Defendants
HEARD : July 27, 2022

判決 (ENDORSEMENT)

判決日:       2022年8月4日
裁判所:       オンタリオ高等裁判所
事件名:       ヴィリ 対 カミレリ他
原告:         フランチェスコ・ヴィリ (本人弁護)
被告:         リタ・カミレリ、ディノ・コラリージョ、 ナビード・ダダ、ラッセル・マノック 及び
            ジョン・ディ・ニーノ、パトリシア・デ・サリオ
被告代理人    弁護士ティム・ギリブランド
裁判官:      J・ディ・ルカ
聴聞:        2022年7月27日

判決 (ENDORSEMENT)

[1] 本件訴えに対し、被告は、民事訴訟規則第21.01条第1項(b)及び第21.01条第3項の
  合理的な理由を開示していない、及び、軽薄、厄介、または裁判権の乱用であるとして、
  被告は、訴えの却下を求める申立てを提出した。
  (no reasonable cause of action and/or frivolous, vexatious or an abuse of process)

 争点と背景 (The Claim and Background to the Claim)

[2] ヴィリ氏はヨーク・リージョン・スタンダード・コンドミニアムNo.1139(York Region
   Standard Condominium Corporation No.1139)の居住者である。
  (以下同コンドミニアムの管理組合を単に「管理組合」と略記する)。

  2020年12月15日の本件訴状提出時点では、各被告が管理組合の理事であった事実は、
  訴状の中には記載されていなかった。

[3] 訴えの請求内容は、特にすべての被告に連帯で200万ドルの損害賠償を求め、更に
  各被告から10万ドルの加重損害賠償、および懲罰的損害賠償 200万ドルの支払を求めている。

  管理組合は訴訟の当事者ではないが、原告は 原告が指示した修理項目リストを遵守
  するよう管理組合に強制する命令を求めている。

[4] 原告は被告らが2010年以降、彼らの個人的利益のために「故意に問題を無視して
  (“negligently purposely”)」、原告に対し危害(harm)、心痛(pain)、苦痛(suffering)、
  緊張(stress)、損害(damage)を与え、彼の精神的健康(mental health)と経済的幸福
  (financial well being)を損ねてきた。これは“犯罪および犯罪行為(Acts of Crime and
  Criminality)”であると主張する。

[5] また、訴状には、ヴィリ氏には、各被告が犯したと信じるに足る合理的かつ蓋然性の
  高い根拠があるとも記載されている。偽証、恐喝、詐欺、犯罪的嫌がらせなどの刑事、
  犯罪、犯罪的脅迫、名誉毀損、誹謗中傷の容疑者として、被告各人が犯人であり、これ
  らの犯罪はまた、被告達の共謀罪として主張されている。これら さまざまな刑事告発は、
  通常の標準形式の宣誓供述調書に用いられる用語を用いた告発状の形式で提出された。

[6] 最後に、各被告は、権力を「悪用かつ乱用(“abusively abusing”)」し、言葉では説明
  のつかない拷問(torture)、苦痛(torment) を与え、故意に肉体的、精神的、経済的な
  危害(harm)、ストレス を与え、5年以上睡眠と休息ができないことによる混乱と当惑
  (confusion)を与えたとして、原告は各被告に対し25万ドルの損害賠償を求めている。

[7] これらの背景として、管理組合は2018年11月、 共同住宅法(Condominium Act, 1998)
  に基づいて、ヴィリ氏による管理組合の理事及び管理会社の社員並びに居住者に対する
  虐待的、威圧的な嫌がらせによる脅迫を抑制(Mr. Villi’s allegedly threatening, abusive,
  intimidating and harassing behaviour)する目的で、ヴィリ氏を訴えた。

[8] これに対して、ヴィリ氏は2019年6月、彼の住戸の下にある電気室に起因する問題に
  関連して、管理組合が彼に抑圧的な行為を行っているとして、管理組合を訴えた。

[9] これらの複数の訴えは受理され、併合審理(consolidated into one action)された。
  2019年10月24日、ぺレル裁判官(Perell J)は、ニューマーケットで行った当事者尋問に
  より、ヴィリ氏による管理組合理事会のメンバーや管理者、居住者、及び管理組合雇用
  の従業員に関するソーシャルメディアへの投稿を控えること、及び、管理組合との連絡は
  緊急の場合を除き、直接の対面接触を禁止し、書面でのみ連絡を取ることを判決で命じた。

[10] 2021年9月13日、ヴァリー裁判官(Vallee J)は、ヴィリ氏が管理組合雇用の従業員
  に対面接触している事実を認め、ペレル裁判官の判決に対する侮辱(in contempt
   of Perell J.)と認定した。

 訴状審査と関連原則 (Legal Test and Related Principles)

[11] 民事訴訟規則21.01(1)(b)は、 裁判官は、不合理な訴因に基づく原告の訴えを却下
   することを認めている。訴えは、「簡潔明瞭に明白(“plain and obvious”)」である場合に
   限られる。そして、却下する場合はそれが不合理な訴えであることが示される。

  そのことはハント対カレィ・カナダ会社の判決(Hunt v. Carey Canada Inc.[1990] 2S.C.R.959)
   で示されている。言い換えれば、当事者は「訴えは、簡潔明瞭に明白で疑いの余地がない
   (“plain, obvious and beyond doubt that the claim will not succeed”)」ことを示さなければ
   ならない。 そのことは「マッキノン対オンタリオ州職員退職局」の判決の段落[19]、及び
   「アスガー対トロント警察局」の段落[8]でも示されている。
  (MacKinnon v. Ontario Municipal Employees Retirement Board, 2007 ONCA 874, 88 O.R
   (3d) 269, at para. 19 and Asghar v. Toronto Police Services Board, 2019 ONCA 479 at para. 8.)

[12] 訴状審査は、当事者が次の条件を満たさなかった場合に適用される。
  「ヒリアー対マーベリックペイントボール会社」判決の段落[39](Hillier and Maverick
  Paintball Inc. v. Hutchens et al., 2014 ONSC 1579 at para. 39)で述べられているように、
  法的に十分な証拠(訴因を認識する要素)のない申立ては訴状審査で却下される。

  訴えの申請を受け入れるかどうかの入り口(閾値(しきいち)threshold)は高くはない。
  裁判所は、不適法却下の決定を下す前に、寛大な読み取りを行い、訴状の不十分さを
  指摘して補正の機会を与える。裁判所はまた、証拠が不十分か、明らかに馬鹿げていない
  限り、真実であり、事実が主張されていると仮定する。リスコ対ブラリーの判決段落[3]
  (Lysko v. Braley (2006), 79 O.R.(3d)721 at para.3(Ont.C.A.))を参照。

[13] 規則21.03(d)に基づき、被告は、 訴えが軽薄または厄介なものである場合、または
  裁判制度の乱用である場合、裁判を停止または却下する申立てを行うことができる。
  このような訴えの下での21.01(b)に基づく裁判所の審査と同様である。それが軽薄
  または厄介な、または裁判制度の乱用であることが最も明確なケースでは、訴えは
  認められず、裁判所は訴えを却下する。「バラダラン対アレクサニアン事件」判決の
  段落[15]及び「ニグマ対トロント警察局事件」判決[16]と[21] を参照。
  (Baradaran v. Alexanian, 2016 ONCA 533 at para. 15, and Miguna v. Toronto
   Police Services Board, 2008 ONCA 799 at paras. 16 and 21.)

[14] 応訴のルールに関しては、「ステッドファスツ対ダイナケア・ラボラトリーズ事件」
  の判決段落[29-36]で示されたペレル裁判官の有益なコメントを参照されたい。
  (Stedfasts Inc. v. Dynacare Laboratories, 2020 ONSC 8008 at paras. 29-36)

[15] 規則21.01(1)(b)に基づき提出された原告訴えに証拠は認められない。しかし、
    規則21.01(3)(d) に基づき提出された被告申立てに証拠は認められる。
  (see Miguna at paras. 15-16.)

[16] 審査で訴状が却下されると、多くの場合、訴状を修正することも認められている。
  修正のための機会を付与するかどうかは、「スパー・ルーフィング&メタルサプライズ社
  対グリン事件」判決段落[35-45]で示されている。(Spar Roofing & Metal Supplies Ltd.
   v. Glynn, 2016 ONCA 296, 348 O.A.C. 330, at paras. 35-45)

  修正のための機会の申立ては許可されなければならない。従って、最も明確な場合にのみ
  拒否される。その判決が「サウス・ホリー・ホールディングス・リミテッド対トロント・ドミニオン
  銀行」段落[6]と、「トラン対ウェスタン・オンタリオ大学事件」段落[26]で示されている。
  (South Holly Holdings Limited v. The Toronto-Dominion Bank, 2007 ONCA 456, at
  para. 6)(Tran v. University of Western Ontario, 2015 ONCA 295, at para. 26.)

 法と分析 (Law and Analysis)

[17] 訴状が提出された時点で、ヴィリ氏は、彼の訴えの性質について長々と話した。
  ヴィリ氏は、彼の住戸の下にある電気室が不適切に構築されており、その結果、電磁波が
  彼に重大な痛みと苦しみを与えたと主張した。ヴィリ氏は、管理組合の理事会メンバーが、
  おそらくコンドミニアムを建てた強力な分譲開発業者の要請を受けて、意図的に彼に危害を
  加える努力を積極的に行ってきたと主張した。

  ヴィリ氏は、本件に関与したすべての個人は、彼に危害を加えることを共謀しただけでなく、
  問題の真実が決して表面化しないように共謀したと主張した。

[18] 訴状を検討するにあたり、裁判官は次の点に注意した。それは素人によって起草された
  もので驚くべきことではないが、訴訟要件が弁護士がついて期待される精度の程度までは
  設定されていない。訴状は、被告を結びつける根拠を明らかにしていない。

  疑惑の行為を述べているが、それは単に刑事犯罪の数を主張しているにすぎない。訴状の
  大部分は 本質的には犯罪情報である[※原注1]。言い換えれば、それは単に被告に対す
  る「告発」のリストである。 同様に、いくつかの「賠償金請求」も並行して生じる可能性があ
  る限り、 民事訴訟の原因及び重要な事実が主張されていないことは決定的である。

  最後に、 訴えは民事訴訟を進めているように見えるが、これもまた主張を裏付ける事実の
  資料を関連付けていない。これは、加重および懲罰的損害賠償を求める、とりわけ、詐欺
  的および悪質な行為としての訴えの請求として特に問題がある。

 

[※原注1]
  この問題について、裁判官は以下に注目する。ヴィリ氏は主張や個人情報を伝えるため
  に治安判事(a Justice of the Peace )の前に出頭した。そして、被告として指名した
  個人に対する訴えを訴訟として取り上げるよう訴訟係属を求めた。
  ヴィリ氏は、この予審プロセスは自分に好意的に展開していると主張しているが、 実際
  にはそうとはいえない。

(訳注)治安判事(justice of the peace:軽微な事件を扱い, 重大事件の予審も行なう判事。
      結婚・宣誓の立ち会いもする。 略 J.P.)

[19] 最終的に原告の主張には致命的な欠陥があると判断する。裁判の申請は却下せざる
  を得ない。また、その主張には重要な事実がまったく存在せず、軽薄で厄介な訴え(claim
  is frivolous and/or vexatious)と判断する。これらの知見を鑑みて、裁判官は 本件請求が
  裁判制度の濫用であるかどうかを考慮する必要はない。

  しかし、裁判官は、本件告訴の核心的部分(core complaint)は、すでにニューマーケット
  において併合審理(consolidated action)された事件におけるペレル判事の判決によって
  裁判所として決定されていることに注目する。

  (訳注:complaint:民事の原告の治安判事に対する最初の申し立てをcomplaintという。
      関連:原注1参照)

[20] 次に、訴状の修正の機会を付与するかどうかを検討する。機会があれば、原告は請求
  を修正することができるし、リモートでも実行可能であるが、ヴィリ氏の主張を聞いて、
  裁判官は次のように結論付けた。ヴィリ氏にそのような見通しを期待する状況にはない
  ため、裁判官は修正のための機会を付与することを拒否する。

[21] 原告の訴状は、修正の余地なく却下する。本件却下決定に対する抗告があれば許可
  して受け入れる。代理人弁護士によって本判決の草案を交付する申立てがあれば許可
  して交付する。その場合、ヴィリ氏の同意に関する書面は不要である。

[22] 費用の面では、被告は部分的な補償費用約10,900ドル、全額補償費用は17,973.45ドル
  を要求している。ヴィリ氏は、いかなるコストの負担命令にも反対している。

[23] 本件訴訟費用の算定について、額の決定を導く原則、特に 合理性と負担割合
  (reasonableness and proportionality)について、提起された問題の性質と文脈(context)
  で見ると、 訴えの単純さと、それに対応してこれまでに取られた応訴の労力とを相対的
  に検討した結果、主張された費用は過大であると判断する。よって原告が被告に支払う
  費用は2,500ドルとし、ヴィリ氏は30日以内に被告に支払うものとする。

裁判官 ディ・ルカ (Justice J. Di Luca)

公開日: 2022年8月4日(Released: August 4, 2022)


(以上 マンションNPO 訳)       (2023年12月5日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 5 December 2023/ Revised Publication -time to time)