管理組合の運営  >   管理組合総会 目次  >  【前頁】  3.総会進行シナリオ  >  4.管理組合総会の進め方
                 >   【次頁】 5.社会心理学からみた管理組合

4.管理組合総会の進め方

Prologue  

総会を成功させる3つの条件
( Key Points for Running Effective Meetings )

1 軽快なフットワーク(行動力)・・・・・準備のスケジュールを立て、やるべきことを手抜きせずに
2 綿密なネットワーク(組織力)・・・・・ひとりでがんばらない。役員全員で手分けして責任分担を
3 少々のヘッドワーク(理論武装)・・・この頁は、このために書かれています。

「強くなければ、生きていけない。優しくなければ、生きる価値がない」
("If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.")

レイモンド・チャンドラー(Raymond Thornton Chandler (July 23, 1888  March 26, 1959) )の1958年最後の小説「Playback」の中で、主人公の私立探偵フイリップ・マーロウ(Philip Marlowe)が女性の依頼人に語った言葉


社会病理と向き合う管理組合 〜身勝手がはびこる「いちゃもん化社会」の到来〜

 身勝手な客の理不尽な要求に耐え、自分の感情をひたすら押し殺して、相手に合わせた態度と言葉で対応する、きびしい自制心を求められる仕事を感情労働(頭脳労働、肉体労働に対して)といいます。 (「いちゃもん化社会」という言葉は2007.6.12朝日新聞「天声人語」からの引用です。 「感情労働」については 「4.社会心理学からみた管理組合」 「感情労働」 を参照)

管理組合に対してもお構いなしに理不尽な要求をつきつける区分所有者がいます。
「管理費を払っているんだから」というのが彼らの言い分ですが、管理組合は賃貸の大家さんではない。筋違い。

最近の風潮として現代社会に広がるモラルの低下が、社会病理( 「現代社会病理とは何か」) としてクローズアップされています。

給食費未納問題を契機としてマスコミが取り上げた無責任・身勝手・自己中心的で理不尽な要求をするモンスターペアレントと呼ばれる一部の親達の存在や、2007年4月17日伊藤(長崎市長)射殺事件を契機として明らかにされた、行政に対して不当で身勝手な要求を繰り返す行政対象暴力などの犯罪が各地で発生していたこと。

更に、2006年8月3日午後9時JR北陸線の特急「サンダーバード」車内で発生した21歳女性に対する強姦・傷害事件の犯人が2007年4月に検挙され、事件時、車内にいた約40人の乗客が誰一人、制止も車掌への通報もしなかったことが社会に衝撃を与えました。

この事件は1964年キティ・ジェノビーズ(Kitty Genovese 28歳女性)がNY・クイーンズ地区(中級住宅地)で性的暴行を受け殺害されたとき、その惨劇を地区の38人が目撃していたにもかかわらず、誰ひとり助けに向かわず、警察にも通報しなかった事件を思い起こさせました。
(「冷淡な傍観者」研究の契機となった事件。都市の社会病理としての「他者への援助行動の不在」)    (「冷淡な傍観者」 参照)

 これらに共通の背景として、社会の都市化がもたらした「自己中心主義」と「他者への不感症・非介入」があります。

管理組合の運営でもモラルの低下は深刻な問題です。自己の利益だけを執拗に主張して他者の意見を聞き入れない身勝手な者、利益誘導を狙って組合運営に不当に介入する者、或は立場を悪用して利益誘導をはかる不当な管理者、そして多くの無関心層や「冷淡な傍観者」がいます。管理を難しくする現代社会病理は複合的になっています。
現代社会の管理組合は、これらの多くの複合的な社会病理と向き合わざるを得なくなっています。

 これらの社会病理と向き合いながら、合法的、かつ合理的に総会を進行させるにはどうしたらよいかを、管理組合以外の総会(例えば株主総会)との類似点・相違点を比較しながら具体的に説明していきます。

 当然ながら、紛糾原因をすべて短絡的に社会病理ときめつけることは出来ません。
総会は年に1度しか開かれないこともあって様々な意見が出され、理性的な対話であっても利害が直接絡む議題では時として紛糾することもあります。

 そんな場合でも、開催前に充分な準備を行い、総会では議長が議事整理権を適切に行使すれば、区分所有者と理事会が活発な議論を展開し、意見を戦わせてもなお秩序ある議事運営が可能であること、総会はコミュニケーションを通じての組合員の協同作業であり、管理組合の役員の視点からのみではなく、総会に出席する区分所有者側としても知っておくべきことがあること、などが解説を新たに書き加えた理由です。

 「議論とは、不同意の意見をもつ者同士が互いに争点を突き止めてそこを開いていくことで成立します」 (「知の技法」より山影進「複数の視点-関係-」)東京大学出版会発行」)

そのための 「理想的な対話を行う条件」 を満たす秩序ある議事運営のルールを明らかにすること、それが本文の目的です。

1. 管理組合のしくみ

1.管理組合とはどんな組織でしょうか

管理組合とは、ひとことで云えば「住まいを共同管理する社団」のことです。
「社団」とは組織化された人の集まりであり、「法人」とは法律によって、人間と同じように権利義務の主体となる資格(人格)を与えられたもののことです。

人間(法人に対して自然人という)は生まれながらに人格が与えられますが、法人は法人登記することによってのみ法人格を与えられます。ただし例外として、法人登記しなくても構成員とは独立した法主体として、登記された社団法人に準じた取扱いがされるのが「人格のない社団」です。登記されていない団体、つまり、法人でない社団又は財団で代表者又は管理者の定めがあるものを「人格のない社団」と云います。

昭和39年10月15日最高裁判例で、この「人格のない社団」において、全体の利益は個人の利益よりも優先するという「団体法理」を適用するための4つの要件が示され、以後、この判例が強制力のある法的規範となりました。

○ 人格なき社団の要件 (昭和39年10月15日最高裁判例)
人格なき社団とは以下の条件を満たしたものをいう。
(1) 共同の目的のために結集した人的結合体であって
(2) 団体としての組織を備え
(3) そこには多数決の原理が行われ
(4) 構成員の変更にもかかわらず、団体そのものが存続し
(5) その組織によって、代表の方法、組合の運営、財産の管理その他団体として主要な点が確定しているもの

上記条件を備えた組織は、人格なき社団と判断されます。そもそも設立登記というものはありません。 これらの条件の内、(1)の条件は、ほとんどの組織成立の基本であるため、実際は上記(2)(3)(4)(5)の4条件を満たす任意の組織が「人格なき社団」です。

人格なき社団の特徴
・ 構成員とは独立した法主体として、社団法人に準じた取扱いがされます。
・ 権利義務については、構成員に総有的に帰属し、構成員各人は、人格なき社団の債務についての有限責任を負う。
 これをわかりやすく説明すると、「人格なき社団であるところの任意の組織が、債務超過に陥っても、その債務は、組織の資産を限度として、それ以上構成員に責任を及ぼさない」ということになります。
・ 代表者が行った事業遂行目的のための法律行為の効力は、人格なき社団に帰属する。
・ 構成員の増減があっても、その組織自体は同一である。
・ 収益事業に対して法人税及び法人住民税・事業税が課せられる。

総有的に帰属する…
 共同所有の一形態、所有権が質的に分有され、その財産の管理処分の権能は団体自体に属すると解する。法人に準じて扱われる。処分行為についても、法人の意思決定手続きによってできる。 管理組合の最高意思決定は総会決議であるので、理事長は管理費等滞納金の債権放棄を総会に提案し承認を受けると、その未収金を損金として計上することが可能となる。 (但し注意点あり) (詳細は 「知っておきたい滞納対策の実務:9章.滞納債権の圧縮と放棄の手続」 参照)

「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」という表現は、民事訴訟法29条、税法(道府県民税:24条1項4号、市町村民税:294条1項4号)などに見られます。
「住まいを共同管理する、人格のない社団」にも保存行為などの義務は社会の構成者として必然的に生じますが、そのままでは権利の行使ができないため、区分所有法で管理組合として権利義務の行使に当って契約の主体となりうるための手続きを規定しています。総会もその手続きに含まれます。

「人格とは」
 日本語の「人格」には「権利義務の主体」としての意味のほかに、人間性、高潔さなどの価値観のニュアンスを含んでいます。例えば教育基本法第一条「教育は、人格の完成をめざし、」とあるように、ここでは「人格」を人間性の意味で使用しています。

 このように法律でも人格を「権利義務の主体」を意味する場合と、「人間性」をさしている場合の二通りがあることから、紛らわしさを避け、人間性などの価値観を入れずに、厳密に権利義務の主体を明確にする目的から、「人格なき社団」を「権利能力なき社団」と云うことがあります。

  例えば、日本郵政公社(郵政民営化に伴い2007.10,.1に貯金業務を(株)ゆうちょ銀行へ移管)では、貯金の名寄せを(1)個人(2)法人(3)権利能力なき社団・財団(4)任意団体や個人事業主の4区分で行っています。

(3)の区分は「マンション管理組合や自治会などが該当する」と説明しています。郵便貯金では(4)の区分名義による取り扱いは拒否(解約)されます。銀行の場合、任意団体は各構成員の連名による預金として扱います。

(詳細は「知っておきたい滞納対策の実務:9章.滞納債権の圧縮と放棄の手続:
   4.2 管理組合の3つの形態別に異なるペイオフの扱い(預金保険機構)」 参照。)

 管理組合法人とは、「住まいを共同管理することを目的とした人の集団で、法律によって権利義務の主体となることを認められた組織」です。同様に会社とは「利益を上げることを目的とした人の集団で、法律によって権利義務の主体となることを認められた組織」です。

人の集団という組織から見ますと、構成メンバー(区分所有者と理事会及び株主と取締役)の関係は似ていますが、目的が違いますから、組合総会と株主総会とでは権利義務の範囲と行使方法は異なります。ときおり、組合総会は株主総会のようなものだという解説を見かけますが、管理組合総会は株主総会とは根拠法も運営方法も全く別のものだということをしっかり認識しておいてください。  (注1) 経営参加型ガバナンスのレベル

 オランダの東インド会社(1602年3月20日にオランダで設立・世界初の株式会社)で無事に一つの航海を終えた後の総会で出資者に利益を配分していたことを発端とする株式会社制度は航海単位が事業年度単位になった位で、 基本的な制度は今も変わってはいない。

それに比べ組合員は船を共同出資で調達して、一緒に乗り込んだ航海船のクルー(乗組員)であり、 「出資、利用、運営(経営)参加」に関する三位一体の責任と義務がある点で、単に利益の配分を受けるだけの株式会社の出資者とは責任も義務も全く異なります。

 組合財産の管理処分の権能から見た権利能力の範囲と根拠については 「知っておきたい滞納対策の実務 第9章 滞納債権の圧縮と放棄の手続 第4項 「区分所有法3条の「〜できる」という表現は多数決原理に基く団体を擬制したもの」 に詳細の説明があります。

2.区分所有者の権利にはどんなものがありますか

利益を上げることを目的とする株式会社では「所有と経営」は分離していて、経営は経営者としての取締役に任せます。株主の権利(株主権)は会社から経済的利益を受ける権利(自益権)と会社の経営に参加する権利(共益権)を持っています。
最近の銀行や大企業間の株式持合い解消などに見られるように、株主の多くは自益権(配当利回り)には関心を持たず、株式の売買益(キャピタルゲイン)だけに関心を持つ株主が増加している一方で、共益権を行使して株主として経営に参加しようとする動きも活発になってきました。

 建物・設備を所有者が共同で維持管理することを目的とする管理組合では「所有と管理」(権利と義務)は株式会社ほど、明確に分離してはいません。区分所有者が組合の運営に参加する権利は、同時に建物の保存行為に関係する放棄できない義務にもなっています。 組合総会で行使する議決権は権利であると同時に管理に伴う義務です。( 「建築基準法第8条第1項」建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するようにつとめなければならない。「マンション管理適正化法第4条第2項」 マンションの区分所有者等は、マンションの管理に関し、管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならない。・・・等々)

 権利であると同時に義務でもあるという例は民法で規定されている「親権」にも見られます。親権には、子どもの身の回りの世話や教育を行う「監護権」、子どもの財産の管理や契約などを行う「管理権」、しつけの範囲で罰を与える「懲戒権」のほか、子どもの住居を定める「居所指定権」、子どもの職業に関する「職業許可権」などがありますが、監護権や管理権は権利であると同時に、子どもを養育する者の放棄できない義務にもなっています。

現行の民法でも、家裁の決定により親権を無期限で剥奪する親権喪失の制度がありますが、しかし、親権剥奪は親子関係に与える影響が大きすぎるという理由で実際にはほとんど活用されていませんでした。
2011年2月15日、法制審議会(法相の諮問機関)は父母らによる虐待やネグレクト(育児放棄)などで子の利益を著しく害する場合、親族や子ども本人、検察官、児童相談所長らの要求により、家裁の判断で、2年以内の期間を定めて親権停止を命じることができる制度を新設する改正民法、改正児童福祉法を2011年3月国会に提出、5月27日参議院本会議を全会一致で可決し、改正案は成立しました。(2012年4月施行)

 親権の例は区分所有者が総会で行使する議決権は権利であると同時に管理に伴う義務であるということと同様の事例としてご紹介しましたが、区分所有法59条にあるように、共同の利益を著しく害する場合、区分所有権の競売請求ができる、すなわちその区分所有者の所有権を剥奪することができることも同様に、区分所有権は義務を伴う権利であることを示しています。

 但し、個別の業務執行の意思決定を理事会で行うとした項目では、「所有と管理」は組合組織としての機能上、分離しています。権利と義務は株式会社の場合よりもはるかに複雑で入り組んでいます。

 理事が理事会に参加するのは権利ではなく、義務ですから、保存行為であって規約上でも理事会決議が可能な事項であれば、理事会招集通知にない事項でも決議できますが、総会では区分所有者に対して招集通知に記載のない議案は、動議の提出も決議もできません。出席していない区分所有者の権利を守るためです。

 区分所有者の権利では、そのほかにも組合総会招集請求権があります。これは組合の執行機関である理事長、監事、理事の役員が相互のチェック機能を十分に果たせない場合に備えて、区分所有者に認められた権利です。

 管理者と各区分所有者との権利義務関係は、民法の委任に関する規定に従って処理されます(区分所有法28条)。その結果、管理者は、その事務を処理するにつき善良な管理者の注意義務を負い(民法644条)、職務を行うにつきその義務を怠って区分所有者に対して損害を与えたときは、これを賠償する義務を負うほか、区分所有者に対して受取物引渡し等の義務(民法646条)、委任終了後の善処義務(民法654条)などを負います。

 管理者の事務報告義務については区分所有法43条に規定がありますが、民法645条の規定の準用を妨げません。すなわち、区分所有者らから請求があれば、いつでも、委任事務処理の状況を報告しなければなりません。もっとも、管理者は個々の区分所有者の受任者ではありませんから、管理者の事務処理の状況の報告を求める集会の招集請求(区分所有法34条3項)などに基づき招集された集会において報告すれば足りるというのが、区分所有法の審議・作成にあたった法務省民事局参事官室の見解です。 (法務省民事局参事官室編・「新しいマンション法」昭和58年11月12日初版 社団法人商事法務研究会発行 P162)

 悪意のある区分所有者から管理者に対し、嫌がらせの目的で執拗かつ過剰に重箱の隅をほじくる質問が、表向きは事務処理の状況の報告を求める形をとって提出されることがありますが、管理者は個々の区分所有者の受任者ではないとする法務省の見解を踏まえて(私はあなた個人の受任者ではない)対応することになります。

つまり、
区分所有法34条3項は、「文句があるなら、束になってかかってきなさい」条項、
区分所有法59条は、「エデンの東」条項です。
(そうしてカインはそこを追われ、エデンの東、ノデに住み着いた。:旧約聖書)

3.管理組合の機関や組織はどうなっていますか

  区分所有法は管理組合の機関(組織)を二通りの形態で定めています。
(1)法人化していない管理組合の場合、「管理者」と「総会」のみ規定しています(ドイツ型管理と同じ)。
 「管理者」とは「組合を代表し、総会によって決定された意思を執行する者」のことです。

(2)法人管理組合の場合は、理事、理事を監督する監事、そして総会の3つが規定されています。

区分所有法において(理事、第49条)(監事、第50条)(事務の執行は総会の決議による、第52条)で規定されているように、理事は法人の事務を執行する機関であり、対外的には法人を代表する機関です。理事の代表権とは、理事が法人の名において他人と契約を締結すると法的には法人自体が契約をしたことになり、 契約の効果(権利・義務)は理事ではなく法人に帰属するということです。監事は(1)法人の財産状況(2)理事の業務執行状況を監査します。会計監査だけではなく、理事の業務執行を監査する業務監査を含みます。

 国土交通省の標準管理規約第35条では、法人化していない(1)の管理組合でも法人化組合にならって 理事長、副理事長、会計担当理事、監事を定めています。
標準管理規約自体には法的拘束力はありません。自分達の管理規約で(2)の法人組合と同じ機関を定めた場合にのみ自治規範として法的拘束力を持ちます。

(3)理事会
 以下は最高裁判決に記載された理事会についての説明です。
  「理事会は法人の意思決定のための内部的会議体である。規約で理事又はその他の役員に委任しうる事項は限定されており(区分所有法52条1項)、複数の理事が存する場合には過半数によって決する旨の民法52条2項が準用されている。
理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねていると解釈することができる。
即ち、規約において、代表権を有する理事を定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも可能である。」 (最高裁第二小法廷判決 平成2年11月26日平成2(オ)701 民集 第44巻8号1137頁) 

2. 総会のしくみ

1.総会の権限はどこまでですか

 管理組合総会は集合住宅の区分所有者によって構成される最高意志決定機関です。

管理組合の業務を執行する管理者・理事・監事等の役員の選任・解任権をもつことが最高意志決定機関であることを端的に表しています。とは云っても、すべての事項を決定するオールマイティな権限をもっているわけではありません。

たとえば、規約で理事長は理事会による理事の互選と決められている場合は、総会で理事長を選任することはできませんし、理事会で決めるとしている業務執行の意思決定事項を総会で直接決めることはできません。

修繕工事の業者選定など意思決定の選択肢を示す上で、多くの検討事項や交渉事など長期間かけて綿密に比較検討する作業を、あらかじめ理事会や修繕委員会などで行う、「所有と管理(業務執行)の分離」は組織としての機能上、合理性があります。
最終的に総会で業務執行の意思決定の選択肢を示した上で、最高意志決定機関である総会の承認を得ることになります。

2.総会にはどんな種類がありますか

 総会には「通常総会(定期総会)」と「臨時総会」があります。

通常総会(定期総会)は年一回開催され(法34条2項)、定期総会で必ず行うものには共用部分の管理事項の報告と承認(事業報告及び収支決算報告・監査報告、次年度の事業計画及び収支予算)があります。

大規模修繕工事など、個別議案に時間をかけて区分所有者の合意を得る必要がある場合や、定期総会の開催まで待てない場合などは規約で定められた手続きに従って臨時総会を開催します。

3.総会で決めるのはどんなことですか

 総会決議には(1)区分所有法で定められた事項と(2)規約で定められた事項とがあります。

 いずれも普通決議と特別決議があり、4分の3以上での決議を要する特別決議の中には更に5分の4以上での決議を要する特殊決議があります。

区分所有法による総会成立と決議の要件は下表の通りですが、規約で要件と定数を変更できる事項もあります。

区分所有法による総会の決議事項

決 議 事 項総会成立と決議の要件



建物の建替え決議(法62条) (*1)〜(*3)
規約の設定・変更・廃止(法31条)
共用部を著しく変更する大規模修繕 (*4)
敷地及び共用部分等の変更又は処分(法17条)(*4)
建物が大規模に滅失した場合の復旧決議(法61条)
義務違反者に対する訴えの提起(法57〜60条)
管理組合法人の設立・解散(法47条・55条)
その他総会において特別決議とすることとした事項
組合員総数及び議決権総数の各5分の4以上
組合員総数及び議決権総数の各4分の3以上
同   上
同   上
同   上
同   上
同   上



[定期総会で必ず行うもの]
共用部分の管理事項の報告と承認
事業報告及び収支決算報告・監査報告
次年度の事業計画及び収支予算
[必要に応じて行うもの]
役員の選任・解任
管理者の選任・解任
管理者の訴訟・追行
管理形態・管理委託契約の締結(*)
管理費・修繕積立金・専用使用料等の変更(*)
共同の利益に反する行為の停止等の請求
建物が小規模に滅失した場合の復旧
規約以外の諸規則(使用細則)等の設定及び変更・廃止
長期修繕計画の作成又は変更

役員活動費の額及び支払い方法
その他総会及び管理規約で総会普通決議とした事項  (*)これらの項目が規約に規定されている場合には、規約の変更にあたり、特別決議になります。

組合員総数及び総議決権の半数以上の
出席・出席議決権の過半数


同   上
同   上
同   上
同   上
同   上
同   上
同   上
同   上
同   上

同   上
同   上

(*1) 建物の建替え決議:
 区分所有者の4/5以上の賛成でマンションの建替えが決議できる。

(*2) 団地一括建替え決議:
 団地全体を建替えるときは団地全体の4/5以上と、それぞれの棟の2/3以上の賛成が必要

(*3)団地建替え承認決議:
団地の一部を建替えるときは建替える棟の建替え決議(4/5以上)と、団地全体の3/4以上の賛成が必要

(*4)マンションの外壁を塗り替えたり、古くなった配管を取り替えたりする大規模修繕は、総会における過半数の賛成で決定できますが、共用部を著しく変更する大規模修繕は3/4以上の賛成が必要です。

4.総会の準備スケジュールは

総会の開催スケジュールはすべて決算日から始まります。
定期総会の総会日にいたるまでの流れの詳細は 「事業年度終了後の諸手続き」 を参照してください。

 なお、株主総会や農協法、中小企業等協同組合法などによる団体の総会の場合は商法第247条の規定により決議の日から3ケ月以内に決議取消の訴えを提起することができることになっています。

逆に言えば、決議の日から3ケ月過ぎても訴えがなければ、たとえ総会決議に瑕疵があっても決議は有効になる(瑕疵は治癒される)のですが、区分所有法にはそのような規定はありません。

5.招集手続きはどのように行えばよいですか

(1)誰が招集するのですか(集会の招集権者)

  区分所有法では総会を開催できる人(招集権者)は管理者が選任されている場合は管理者(34条)であり、法人の場合は理事(47条9項)です。管理者が選任されていない場合には、次に述べる臨時総会の招集と同じく、所有者の1/5以上で議決権の1/5以上を有する者が、直接、集会を招集することができます。

但し、総会の招集に必要な定数は、規約で減じることができます。(34条5項)つまり規約でハードルを低くすることは出来ますが、定数を増やして集会を開きにくくする(ハードルを高くする)ことは出来ません。臨時総会の招集の条件も同様です。

 臨時総会は区分所有法では所有者の1/5以上で議決権の1/5以上を有するものは管理者に対し、会議の目的事項(議案の要領、すなわ議題)を示して総会の招集を請求することができ、2週間以内に請求の日から4週間以内を会日(集会の日のこと)とする集会の招集の通知が発せられなかったときは、 その請求をした区分所有者が、臨時総会を招集することができます。但し、請求に必要な定数は、規約で減じることができます。(法34条3項)

(2)招集の通知(総会案内)はいつまでに発送しなければならないのでしょうか

 招集の通知(総会案内)は、総会の日から少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項(議題)を示して、各区分所有者に発しなければならない(法35条1項)と定めています。1週間前にというのは発送規準で、到達基準ではありません。

開催日より一週間前に発送ということは、通知を発した日と総会当日を除いて、その間に7日間必要ということです。

 規約で通知期限を定める場合はこれよりも長く(例えば2週間前のように)定めることができます。5月28日が総会当日とすれば、5月13日に通知を発しなければならないことになります。

ただ通知すればよいというものではなく、招集通知書には次の内容が記載されていなければなりません。

(3)招集通知書に記載・添付するものは

 招集通知書には、総会の日時、場所、議題(会議の目的)を記載します。更に、共用部分の変更、規約の変更、共用部分の復旧等(特別決議)については、議案内容の通知が必要です。(法35条5項)

 特別決議でなくても、「議案書」は添付しなければなりません。欠席区分所有者が議決権行使書の賛否欄に賛否の記入をするためには、「議案書」は当然に添付されていて、その採否が判断できなければ、議決権行使書に記入は出来ないからです。

出席者は、議題を事前に知ることにより、議論を深めることが出来ますし、出席できない方も通知された事項について賛否を決定することができます。法律では重要な議案つまり3/4以上の決議を要する特別決議の議案については、議題の具体的内容を記載した文書(即ち議案書)の添付が義務付けられています。

  1. 招集通知書(総会開催案内)・・・総会の日時、場所、議題(会議の目的)を記載
  2. 議案書・・・議題の具体的内容を記載
  3. 出席通知書・・・出席する方、又は欠席した上で代理人指定か・議決権行使書のいずれかを把握
  4. 委任状・・議決権(代理)行使を委任する代理人の指定(出席扱いとなります)
  5. 議決権行使書・・通知された各議案についての賛否を通知(出席扱いとなります)

(4)招集通知書は誰あてに発送するのですか

 届出のあった区分所有者の住所あてに招集通知を出しますが、これを通知しない区分所有者に対してはその区分所有者の所有する専有部分が所在する場所あてに発送します。(法35条2項)

規約で定めれば、現に居住している区分所有者と、通知のない区分所有者(わかりやすく云えば行方不明者)に対しては建物内の見やすい場所に掲示して発送に代えることができます(法35条4項)

共有名義の場合は、共有者全員に通知する必要はなく、集会において議決権を行使するものが定められているときは(40条)その者に対して行い、その定めがない場合は、共有者のうちの任意の一人に対して通知するだけで足ります。

【参考】(平成13年1月31日 神戸地裁判決 建替決議無効確認請求事件 平成9年(ワ)第1842号、平成10年(ワ)第115号、平成10年(ワ)第736号 判例時報1757号123頁)

 「管理組合が誰に集会招集通知を発し、議決権の行使をさせるかを決する基準として、登記簿上の記載によるのか、 それとも実質的な権利関係によるものかについては、仮に、実質的な権利関係を基準にしなければならないとすると、 管理組合が実質上の所有者が誰かを調査しなければならず、管理組合に過度の負担を強いている可能性がある。

 また、採決に参加した者が事実の区分所有者でなかったと後になって主張することが許され、 ときに採決の結果が覆されることになり、法定安定性が損なわれるので、画一的で明確性のある登記簿上の記載によるとするのが相当である。」

議題と議案はどう違う?
議題=会議の目的とも云います。「第一号議案平成○年度事業報告」、「第二号議案平成○年度決算報告」など
議案=議題の具体的内容を記述・または要約したもの。総会に「議案書」として添付する書類

(招集通知書の書式例)

区分所有者各位

(発送日時と組合住所、管理組合名、招集権者名を記載)

第○○回定期総会招集ご通知

 拝啓、平素は当管理組合運営にご協力を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、当管理組合第○○回定期総会を下記の通り開催いたしますので、ご出席くださいますようご通知申し上げます。
なお、当日ご出席願えない場合は、書面によって議決権を行使することができますので、お手数ながら後記の議案書をご検討くださいまして、同封の議決権行使書に賛否をご表示、または、委任状にご記名の上、
平成○○年○月○○日(○)までに到着するようご返送いただきたくお願い申し上げます。

敬具

1. 日  時   平成○○年○月○○日(○曜日) 午前○○時

2. 場  所   ○○市○○町○○番地  当マンション1号棟 コミュニティホール

3. 会議の目的事項

     第一号議案 第○○期(自平成○○年4月1日至平成○○年3月31日)事業報告

     第二号議案 第○○期(自平成○○年4月1日至平成○○年3月31日)決算報告

     第三号議案 .理事及び監事改選の件

     第四号議案 第○○期(自平成○○年4月1日至平成○○年3月31日)事業計画及び予算案の件

◎当日ご出席の際は、お手数ながら同封の議決権行使書用紙を会場受付にご提出くださいますようお願い申し上げます。

(5)議決権

 議決権は各共有者の持分、即ち、その有する専有部分の床面積の割合による規定(法14条)から、規約に別段の定めがない限り、 共用部分の共有持分割合の原則的算定方式とおなじく、各区分所有者の専有部分の面積比により決定する(法38条)ことになっていますが、実際にこれを行うことは現実的ではありません。そこで規約で専有部分の大小にかかわらず、1戸1議決権と定めるのが普通です。

 区分所有者の数は一戸の専有部分を数人が共有している場合でも、一人として数えます。(法40条)。 逆に、一人で数戸の専有部分を所有していても、区分所有者の数としては一人として数えます。    「12. 採決方法はどのようになっていますか」 (注2) 参照

 普通決議に限ってのことですが、規約で組合員数の過半数で決する旨を定めることができます。規約に定めがなければ、普通決議であっても、組合員数と議決権数の両方を数えなくてはなりません。 議事録には区分所有者総数、総議決権数、賛否の区分所有者数、議決権数を記載しておく必要があるからです。

株主総会における議決権行使の実際


 株主総会では端株を含まない売買単位での株式数(単元株式)が議決権であり、招集ご通知に同封される議決権行使書には各人別に議決権数○個と記載されています。出席者はこれを総会受付に提出します。
株主総会では、会議の冒頭にこの議決権数と出席株主数の両方が報告されて、総会が有効に成立することを宣言します。但し、議案の採決では、賛否の議決権数のみ数えます。出席者数での賛否は数えません。
(参考): 株式会社には議決権のない株式(無議決権株式、議決権停止株式)もあります。

株主総会における議決権行使の賛否割合開示

議決権行使の賛否割合開示とは総会の各議案ごとに、賛成・反対の議決権行使結果を票数、若しくは比率で示すことです。
英国では、上場会社の議決権行使結果の開示が義務付けられており、EUでも法制化の動きがあります。 法制化していなくても、欧米では例えば選任役員ごとの賛成比率まで詳細に開示されています。
日本でも2009年5月、金融庁や東京証券取引所が開示ルール制定に向け動き始め、2010年2月と5月に下記を公表しています。
  平成22年2月12日金融庁「「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)」等の公表について」
  平成22年5月17日金融庁「第1回コーポレート・ガバナンス連絡会議 議事要旨」

その背景には、日本から流出した投資資金を呼び戻すために、業界団体の自主ルールによる義務化をすすめ、上場企業にガバナンスの改善圧力をかけ、日本企業の閉鎖性をなくす狙いがあります。

米国証券取引委員会の法的拘束力のある規則では投資信託を運用するすべての法人に対し、議決権行使をめぐる一連の情報開示を義務付けており、機関投資家は株主利益に反すると判断すれば、会社提案に反対します。

日本では株式持合いの”物言わぬ株主”が永年の慣行であり、今回の金融庁の動きに対して、生命保険会社は「個別の開示は困る」としてガイドラインの公表を見守っています。議決権の行使内容をオープンにすると、経営陣の保身に利用することが難しくなります。

外国人持ち株比率が高く、不断に経営に対する強いプレッシャーを受けている企業と、株式の相互持合いを維持継続しつつ、護送船団行政に守られてぬるま湯的な国内市場で生き延びようとする生命保険会社のような企業では、透明性を求める国際化基準への対応には差があります。

日本の上場企業株主総会で、議決権行使の賛否割合開示を行っていた企業は、2008年度の6月総会までは、ソニー、資生堂など3社だけでした。しかし、2009年度6月総会では、三菱商事など約20社が議決権行使の賛否割合開示を行うようになってきました。

では、議決権数665万個、全株主数70万人、議決権行使書の提出者18万人、実際の総会出席株主数8,000人のように、 各3,000人が入る3つの会場を双方向テレビ会議システムでつないで同時に行うような大規模な株主総会では、賛否の数をどのように数えるのでしょうか。

 事前の議決権行使書提出者の賛否が基礎数だというのは分かりますが、会場内での反対議決権を数えることは物理的に不可能なのに、拍手で採決した瞬間に、大スクリーンに賛否の議決権数が一桁の数字まで表示されます。 (8,000人に投票ボタンを持たせれば集計は可能ですが、何せ、拍手での採決なので・・やるもんだナア・・と感心)。

ちなみに会場内での撮影・録音・録画は禁止されております。日本の裁判では訴えたほうに立証責任があります。(詳細は 「市民紛争の解決手段:立証責任」 を参照)。あしからず。 

管理組合総会でも、議決権行使の賛否割合開示の要求が出ることがあります。
賛否数(或は割合)開示ではなく、「賛成が過半数を超えて可決」としても、現行法規上は違法性を問われる事はありません。 しかし、積極的に賛否割合を開示することは透明性の立証・ガバナンスの強化にもつながり、後々のトラブルを防ぐことにもなります。

3. 総会のすすめかた

1. 議長にはどんな権限がありますか

 議長には総会の秩序を維持し、議事を整理し、議事の進行を円滑にすすめるための「議事整理権」という権限があります。

しかしながら、総会は区分所有者が集まって決議を行う合議体ですから、議事運営のすべてを議長の独断のみで行えるわけではありません。議場に諮(はか)り、その賛成を得た上で、行わなければならない事項もあります。

(A)議長が単独で判断できること

(1) 議事進行に関すること

  1. 総会の開会と閉会の宣言する
  2. 質問者・答弁者を指名する
  3. その発言時間を制限する
  4. 議題・議案の審議の順序を変更する
  5. 決議事項を個別上程方式とするか、一括上程方式とするかを決定する
  6. 質疑を打ち切る
  7. 休憩する
  8. 採決の方法を決定する

(2) 秩序維持に関すること

  1. 発言を中止させる
  2. 議長の指示を無視し、議場の秩序を乱した者を退場させる

(B)議長が単独で判断できないこと(議場に諮り、その賛成を得た上で行うこと)

  1. 議題・議案に関する修正動議
  2. 議長不信任の動議
  3. 総会の延期・続行の動議

(A)に関しては、参加者から動議の形で出されても、議長は議場に諮らずに、自らの判断で決定して構いません。
勿論、これらに関して議場に諮ったうえで決定するのは構いません。
(B)に関しては、必ず議場に諮り、その賛成を得た上で行わなければなりません。

(注)上記の目的と根拠法 (本注は2013.08.03追記)
(目的)
議長の独断専行や暴走といった非難を受けずに、秩序ある議事進行を行うための根拠として、会社法や国会法における「フェアな議事進行を行うための各条項」を準用しています。

(根拠法)  * 上記は区分所有法や関連法では直接的には明示されていません。
(A)項は会社法第315条(議長の権限)及び国会法第19条(議院秩序保持権・議事整理権・議院事務監督権・議院代表権)の規定に基づく衆・参各議院規則を例示したもの、
(B)項は国会法第41条に規定された常任委員会のひとつである議院運営委員会(議院の運営や議長の諮問等)の業務を例示したものです。

国会中継では、本会議中に議事進行に問題が発生すると、議長の求めに応じて、議長の周りに議院運営委員会理事が寄り集まって協議し、その結論に従って議長が議事進行を行う光景が見られます。 同じ考えに立てば、管理組合総会では、直接 議場に諮り、多数決で決することになります。

「公正(フェア)な議事進行を他律的に成文化した会社法や国会法等の規定を準用した手段を尽くしており、独断専行の非難はあたらない。」と反論する根拠にはなるでしょう。(注・終わり)

2. どんな場合に退場させることができますか

 発言や行動で議事を妨害したり、総会のルールを守らず、議長の制止命令も聞かないなど、総会の秩序を乱す者に対して、議長は「発言を中止してください。これ以上、不規則な発言を繰り返した場合には、退場してもらうことになります」など中止命令を出すとともに、退場の警告を発します。

2回以上、警告を行ったうえで、それでも中止命令に従わないときは、秩序を乱したことを理由に、その者の氏名を告げて、「退場してください」といって退場を命じます。それでも退場しない場合には、退去命令を拒否している者(即ち刑法上の不退去罪を犯している者)に対して、他の参加者と共に実力行使で議場から退去させることはできます。但し、管理組合側に暴行罪が成立するような過剰な実力行使はできません。

 議長の議事整理権を公然と無視したり、大声で威嚇するなど実力で秩序を乱す者の出席が予想される場合には、組合員当事者同士の場合には冷静な対応は難しいので、大きな会社の株主総会に警備員を派遣して総会警備を熟知している警備会社に事前に警備員の派遣を依頼する方法もあります。
警備員は、腕をとる、身体を取り囲むなどの実力で会場から退去させることは可能ですが、抵抗する者に対しての過剰な実力行使はできません。

「実力行使が刑法35条(正当防衛)により罰せられないための条件」を述べた(昭和50年4月3日最高裁判所第一小法廷判決)では次のようになっています。
「逮捕をしょうとする者は、警察官であると私人であるとをとわず、
1.犯人からの抵抗を排除する目的で行使されるものであること。
2.社会通念上逮捕をするために必要かつ相当な限度にとどまっていること

 大企業の総会なら警察も要請(・・企業の顧問弁護士を通じて公安委員会に要請・・)に応じて株主総会に立会うことがありますが、管理組合の場合は要請しても警察が応じることはないと思います。忙しい、区分所有法のことは分からない、民事不介入・・などがその理由です。(指定暴力団が相手の場合なら相談に応じることもある)

 予想もしていなかった議事妨害によって議事の継続が困難になった場合、議長は「しばらく休憩します」と休憩を宣言します。休憩の間、理事が集まって対応策を協議します。それが終ってから、「お待たせいたしました、それでは議事を再開いたします」と宣言して、総会を続けます。
場合によっては、総会を延期することを議場に諮り、参加者の賛成を得たうえで、総会の延期を宣言します。 議事録には、○○号室○○氏の執拗な議事妨害によって総会の継続が困難になった為に、総会を延期することを決議したと明記しておきます。次回の再開の期日までの間に、区分所有者にその経緯を説明し、再開した総会で再び議事妨害が繰り返されないよう、出席停止の仮処分申請などの対策を練ることになります。
 「荒れる総会 5つの対策」 1.総会への出席拒否はできるか? 

 正当な理由もないのに、議長が退場命令を出したときには、その者の発言権・議決権行使を不当に制限したとして、総会決議無効の訴えが出される可能性があります。したがって「どのような経緯で退場命令を出したか、そして退場命令以外に秩序維持の方法がなく、客観的にもそれが正当なものであったか」が問われます。

そのことを客観的に説明できるような冷静な対応を行い、後日の紛争に備えて議事録に正確に記録しておきます。紛争になった時の対策は
 「荒れる総会 5つの対策」 2.退場命令を出すとどうなるか を参考にしてください。

3. 総会はどんな順序で進められますか

 管理組合総会は議長の開会宣言で始まり、閉会宣言で終わります。

(1)議長の開会宣言・・・議長就任のあいさつの後に行われます。
(2)議事運営のルールの説明・・・質問を受け付ける時期、発言の方法などを説明します。
(3)出席区分所有者数・議決権数の報告・・・定足数を満たしていることを明確にする。
(4)報告事項・・・議長または理事から議案書の事業報告書を報告する。
(5)議題の上程・・・議案を一つずつ上程しても、一括上程しても良い。個別上程方式をとるか、一括上程方式をとるかは諸事情を考慮して決める。
(6)議題・議案についての説明・・・議長または理事から議案書の貸借対照表・収支計算書などの財務諸表を説明する。
(7)監査人報告・・・監事が会計監査を報告する。
(8)質問状への回答・・区分所有者から質問状が出ているときは、ここで回答する。
(9)質疑応答・・区分所有者の質問に理事長、理事が回答する形で質疑応答となる。
(10)採決・・上程された議案をひとつずつ採決する。理事(役員)選任決議の場合、規約定数内の候補者数であれば、すべての理事候補者をまとめて採決しても良いが、個々の役員候補者ごとに採決した方が良いときもあります。
(11)議長の閉会宣言・・総会終了の宣言をする。

標準的な総会の流れは 「総会進行シナリオ」 を参照下さい。

4. 受付はどうしますか

(1)受付の役割とポイント

 株主総会の場合では、受付で株主及びその代理人のみを入場させ、それ以外の者は入場させないことが重要な意味を持ちます。もし誤って株主でない者の入場を許し、その者を議決に参加させてしまったり、逆に株主であるにもかかわらず、 出席を許さず、議決に参加させなかった場合、総会決議が瑕疵(欠陥)をもつとして決議無効の訴えを提起される可能性があるからです。管理組合の総会でも同様のことが言えます。

 しかしながら、「社会心理学からみた管理組合」で説明したように、「集合住宅の入居者の多くは管理組合という集団の目的と制度を知らずに入居し、総会を通じて集団の目的と制度を学んでいきます。総会は単なる人の集合体を 「実質的な組織集団」に変えるトレーニングの機会」という一面もあって、小規模の管理組合では、夫婦や家族などの居住者が参加する和やかな総会は誰にとっても望ましく、 あらかじめ議決する際に、議決のルールを説明すれば混乱のない議決も可能です。但し、規模が大きくなるとそうも行きません。また100戸以下の管理組合であっても、厳密に権利を行使できる者の確認をしなければならない状況になることもあります。

大規模の管理組合の場合

1)区分所有者の資格審査
  区分所有者の資格審査の簡単な方法は、区分所有者と面識のある者を受付において、区分所有者であるか否かを確認することですが、組合規模が大きくなると不可能です。また、区分所有者も常に変動しますので、中規模以上の管理組合では本文の組合総会招集通知書に例を示したように、 「◎当日ご出席の際は、お手数ながら同封の議決権行使書用紙を会場受付にご提出くださいますようお願い申し上げます。」として明記しておき、通知書の持参者だけを区分所有者と認める方法をとります。委任状の持参者も同様に認めます。本人が代理人ともども出席したいといってきても、 どちらか一方の出席を認めれば、他の方の出席は拒否できます。

また、区分所有者リストと照合し、運転免許証・健康保険証・身分証明書で本人であることが確認できた者、または氏名・棟番号・部屋番号・所有する占有部の数を申告させ、それが区分所有者リストと一致していたときに区分所有者と認める方法もあります。

2)区分所有者でない者の出席を認めてよいか
 区分所有者の代理人については、 1.代理人規定にない者の出席は? を参照下さい。
議事に参加しない傍聴人について許可するかしないかは、議長の議事進行に関する権限ですので、議長(理事長)の判断で傍聴の可否やマスコミへの公開を決めることができます。 ただし、傍聴者は質問を含め、議事に参加することはできません。
そのため、一般区分所有者と区別した傍聴席を設けた上で入場を許可すべきです。これらの者の議事への参加を認めてしまうと総会決議が瑕疵をもつことになります。

修繕工事に関する質疑で調査診断を行った一級建築士などが総会に出席し、議長の求めに応じて発言するのは、議長の委任によるものであれば問題ありません。会計分野における会計士・税理士、法律分野における弁護士も同様です。いずれも各専門分野において社会的に専門家と認められている業務独占資格者です。

 

3)途中入場者について
 総会が開催中であれば、遅れてきた者であっても途中入場は認めなければなりません。また会場からいったん出た者の再入場も認めなければなりませんが、但し、頻繁に出入りして会場外の人間と連絡を取り合って議事に参加しているような者や、退場命令によって会場から出た者の再入場は認めなくても構いません。

4)カメラ・ビデオ・テープレコーダーなどの持ち込みについて
 これらの使用が総会の議事運営の妨げとなる場合は、その使用を禁止できます。これらの使用は出席者に心理的圧迫を与え、発言をためらわせる可能性があり、議事の妨げになることがあるためです。
小型のボイスレコーダーをポケットに入れて使用するなどの場合は、これ見よがしに示威を与えるものでない限り、使用禁止にする理由は特にありませんが、但し、トラブルを防ぐため、一般的には式次第と同時に下記の「お願い」を案内状へ印刷し、会場内にも掲示しておくのが普通です。

「お願い」
管理組合総会の運営にあたりまして、区分所有者の皆様には以下の事項につきお願い申し上げます。
・会場へのカメラ、録音、録画機器などの持込みは、ご遠慮願います。
・会場内での喫煙・飲食ならびに携帯電話のご使用は、ご遠慮願います。
・会議の進行については、議長の指示に従っていただきますようお願いいたします。

5. 議長の就任と開会宣言はどうしますか

 総会の議長は、議事運営についての強い権限を持っていますので、誰が議長になるかは総会の運営に重大な影響を及ぼします。管理組合は合議体ですので、合議体の慣行として、その合議体で選出された者が議長になるのが原則です(法41条)。

従って議長には、原則として管理者(理事長)が就任します。 (規約に別段の定めがある場合及び別段の決議をした場合を除きます。) 同様に法人組合であれば代表理事(理事長)が就任します。但し、区分所有者が集会の招集を請求したにもかかわらず、管理者が総会を招集しなかった場合、または管理者がいない場合には集会を招集した区分所有者の一人が議長に就任します。(法34条4項、5項、41条)

 総会の冒頭に、議長に就任した理事長は、「おはようございます。理事長の○○です。規約第○条の定めによりまして、私が議長を努めさせていただきます。それでは、ただいまから○○管理組合第○回定期総会を開催いたします」と議長に就任した根拠を述べるとともに、自らが議長である旨を宣言してから開会宣言をします。
開会宣言をした時刻を記録しておきます。

 総会は、招集通知書に記載した定刻以前に開会宣言をしてはいけません。招集通知書記載の定刻ぎりぎりに来る者がいるからです。逆に、天候や交通事情などの事情で遅れる方が予想される場合などは15分程度を限度として、開会を遅らせても構いません。それ以上に開会を遅らせる場合には、既に待っている方の中で、 その後の議事に参加できない方が出るなどの不都合が生ずることがあり、違法となることがあります。

 総会が終了したときには、閉会宣言を行い、いつ終了したかを記録しておく必要があります。

6. 出席区分所有者数と議決権数の報告はどのように行いますか

 管理組合の決議は、組合員数と議決権数の両方がその採否の規準となります。(「二重多数決方式」)

招集通知書に添付して返送されてきた出席通知書、委任状、議決権行使書を整理し、あらかじめ出席区分所有者数、出席者の議決権数、委任状、及び議決権行使書による書面投票をした区分所有者数、議決権数をそれぞれ記載したリストを準備し、総会当日は受付で、実際に出席された方をリストに基いて確認しておきます。 このリストを照合しながら、出席区分所有者数と議決権数の報告を行い、総会が成立したことを報告します。

7. 事業報告・決算報告・監査報告はどうしますか

 事業報告書、貸借対照表、収支計算書などの財務諸表を招集通知書に「議案書」として添付している場合には、出席者は既に読んでいるという前提に立ち、細かい数字について克明に報告する必要はありません。要点を簡潔に説明すれば充分です。

会計報告を理事長が行うか、他の理事(例えば会計理事など)が行うかは議長(管理者・理事長)の判断によります。理事長が自分で行うのが原則ですが、他の理事に説明を委任しても構いません。質疑応答の回答者も、原則は管理者・理事長ですが、他の理事に説明を委任しても構いません。

質問者には、回答者を指名する権限はありません。回答者を指名する権限は議長だけです。
監査報告は監事が行います。

8. 議案の上程はどうしますか

議案の上程には「個別上程方式」と「一括上程方式」とがあります。

「個別上程方式」は、各議題・議案ごとに上程し、その審議と採決が終了してから次の議題を上程する方式です。

「一括上程方式」は、議題・議案を一括して上程し、すべての議題・議案の審議を行い、それが上程した後、各議題・議案の採決を続けて行う方式です。

「個別上程方式」は、質疑応答が各議題・議案ごとに行われますので、審議の対象が明確になります。 少人数の出席者で審議する場合にはじっくり審議できる利点がありますが、総会の議事を妨害し混乱させる意図を持った者が、執拗な質問を繰り返すなどの行為をした場合、議長は各議題・議案ごとに質疑を打ち切るタイミングが難しくなります。 さらに、多数の区分所有者が各々質問する場合、いくつかの議題・議案にまたがったものとなり、議題ごとに限定して質問を受け付けることが難しくなります。こうしたケースでは、「一括上程方式」の方が議事進行を円滑に進めることができます。

9. 議案の説明はどうしますか

 招集通知書に「議案書」を添付しておくと総会での説明が簡単にできます。
出席者に対して「書いてあることをそのまま読み上げても意味がありませんので、要点のみご説明申し上げます」と断った上で、簡略化して説明をします。
説明が終ると、質問を受け付けます。

ご質問をいただく際のご注意点を申し上げます。
1.会議の目的たる事項に関しない質問は、お受けできません。
2.質問者は回答者を指名することはできません。回答者が必要な場合は議長が指名します。
3.区分所有者のプライバシーに関する質問、及び回答することが共同の利益を著しく害するような質問はお受けできません。
4.過去の総会での決定事項に関するご質問は一時不再理の原則によりお受けできません。
5.質問のある方は挙手をされ、議長の許可を得た上でご発言下さい。部屋番号とお名前を仰った上で、質問は簡潔に3分以内でお願いいたします。

10. 区分所有者の質問に対する説明義務はどこまでですか

質問に答えるときの注意点
1. 回答すべき質問か回答しなくて良い質問かをふるいにかけて、答えなくて良い質問には議長の判断で回答を拒否し、回答者の指名も行うべきではありません。
2. 質問は簡潔にさせます。ひとつの質問を3分以内、または5分以内と制限して構いません。
3. 最も説明に適した回答者を指名するのは議長であり、質問者に回答者を指名させてはいけません。
  「質問者には回答者を指名する権限はありません」と拒否して結構です。
4. 質問者が納得しなくても、合理的な説明がなされれば、それで質問に対する回答は終了したことになります。
  管理者(理事長)には区分所有者に対して説明義務がありますが、質問者が納得するまで説明し続ける必要はありません。客観的に合理的と認められる程度に説明すれば足ります。
  質問者が納得しないときは、「ただいまの説明で、一般の区分所有者の皆様には十分ご理解いただけたものと考えます」など、十分義務を果たしたことを明確にした上で、次の質問に移ります。
  但し、「一般の区分所有者の皆様には十分ご理解いただけた」と自信をもって云えるような説明をしてください。
間違った意見に対して、同調者が出る場合もあります。
5.質問者が多数いる場合は、同じ人に何度もさせず、なるべく多くの人に質問させるようにします。
6.過去の総会で否決または決定したことを再度、質問や修正動議で出されても、一時不再理の原則で再決議はできません。

下記の回答例をカードに書き留めておくと、いざというとき便利です。

答えなくて良い質問
1. 会議の目的たる事項に関しないときは
  「ただいまのご質問は、本日の総会の目的とは関連がありませんので、回答は致しかねます」
  会議の目的たる事項とは、招集通知に記載された議題・議案のことで、決議事項だけではなく、
  報告事項も含まれます。議題・議案と離れた一般的・抽象的な質問には答える必要はありません。
  「会議の目的たる事項に関しない質問は、ご遠慮願います」と述べて回答を拒絶して構いません。
2. 区分所有者共同の利益を著しく害するときは
  「ただいまのご質問にお答えすると、区分所有者共同の利益を著しく害することになりますので、
  お答えはご容赦願います」
  大規模修繕工事などの場合、各社から工事の見積をとって比較する前に、
  総会で予算額が公開されると、それに合わせられてしまいます。
  予算額の公開が必要な場合には、その危険性を理解いただいた上で、慎重に行ってください。
3. 個人のプライバシーに関する質問には
  「個人のプライバシーに関する質問にはお答えできません。」
  総会は公開の場で行われますので、区分所有者個人のプライバシーに関する質問には答えてはいけません。
4. 調査を要するとき
  「ただいまのご質問にお答えするには、資料(事実関係)等を調査しなければなりませんので、
  お答えはご容赦願います」  
  説明のために調査を要する質問について、その場で回答せよと云われた場合には、
  「調査を要する質問は事前に書面でご提出いただかないと、この場では回答することはできませんので、 回答は拒否します」と述べて構いません。
5. その他の正当な事由があるとき
  「ただいまのご質問については、回答すべきではない正当な事由がありますので、お答えは致しかねます」
  「もっぱら、議事の妨害を目的として為された質問」「関係者のプライバシーに関する質問」など
6. 区分所有者の発言が意見表明にすぎないとき
  「ただいまのはご意見として承りました。それでは次の質問に移ります」
  質問の体をなさず、組合運営のあるべき姿や役員の責任問題に関する区分所有者の意見表明などには、
  説明義務はありません。

11. 事前に出された質問状への回答はどうしますか

 総会当日の質問で、回答するのに調査を要するものであったときには、管理者はその質問への回答を拒否できます。その一方で、区分所有者から総会前に充分な期間をもって書面で質問状が提出されたときは回答を拒否できません。
この質問状に対しては、質問を項目ごとに分類・整理して一括回答するようにします。一般の参加者にとっても、集約されたQ&Aの形で説明を受けたほうがわかりやすく、議論が深まります。この質問状への回答は、質疑応答の前に行います。
これから質問しようとする参加者が、その説明で納得する可能性がありますし、或は、その説明を受けて更に本質的な議論を深めることができるからです。
但し、後で述べますが、質問状のすべての項目に回答する義務はありません。単なる個人の意見表明には回答する必要はありませんし、個人のプライバシーに関することや、区分所有者の共同の利益に反することには回答できません。また、 質問状を提出した区分所有者が総会に出席して来なかった場合には、その質問に回答する必要はありませんが、他の参加者にとっても有益であると判断した場合には、用意した回答を公表して構いません。

12. 採決方法はどのようになっていますか

 管理組合の採決方法は「二重多数決方式」(注1)で、組合員数と議決権数の両方を数えなくてはなりません。

議決権数のみの多数決でよい場合というのは、
 (1)規約で多数決は議決権数のみで良いと定めている場合で、
 (2)例え規約でそのように定めてあったとしても、それが許されるのは普通決議だけです。

特別決議については強行規定(法が優先し、規約で定めても無効)で必ず二重多数決方式を取らなければなりません。 そのために、総会準備として事前にやるべきことがたくさんあります。

まず、総会開催前に区分所有者総数、総議権数を所有者名簿から確定しておきます。
区分所有者総数は占有部の譲渡にともなって毎年変わることもありますので要注意です。

つぎに、招集通知書に添付して返送されてきた出席通知書、委任状、議決権行使書を整理し、あらかじめ出席区分所有者数、出席者の議決権数、委任状、及び議決権行使書による書面投票をした区分所有者数、議決権数をそれぞれ記載したリストを準備しておきます。

総会当日は受付で、実際に出席された方をリストに基いて確認しておきます。
受付では家族や夫婦の両方が出席したり、共有者全員が出席した場合などは、議決権を行使する方を事前に確認しておく必要があります。採決に当っては、このリストを照合しながら、組合員数と議決権数の両方を数えることになります。

(1) 採決に入るタイミング
 採決に入るのは、質疑が十分に行われ、大方の質問が出尽くしたと思われた時点で、議長による質疑打ち切りの宣言が行われた後です。総会が荒れた場合、このタイミングは非常に難しくなります。質疑打ち切りの宣言は議長の議事整理権に属するもので、議長の判断のみで出来ます。

(2)採決の方法
 採決は拍手、挙手、起立など、どんな方法でも構いません。但し、特別決議の場合は、賛否における区分所有者数と議決権の数を議事録に記載する都合上、挙手以上の方法によります。その区分は次によります。

(2-1)明らかに賛成多数または全員賛成が見込めるときは「拍手」や「賛成」などの発声を受けて議長が「賛成過半数をもって可決(承認されました」旨の可決(承認)の宣言をして構いません。

(2-2)一部に反対がある、またはその数が問題になる特別決議の場合は、「挙手」か「起立」による「決」をとります。

(2-3)建替え決議の場合は、反対者の氏名を記録しておかなければなりませんので、誰が賛成し、誰が反対したかを記録しておきます。

以上の採決の後に、議長は「賛成過半数をもって、(或は4分の3以上の賛成をもって)可決(承認)されました」旨の宣言を行います。

採決のあと、賛成、反対の数を明確にしろと区分所有者から要求される場合がありますが、普通決議の場合であれば、議長としては、議案の可決に必要な賛成があったか否かを明確にするだけで良く、それぞれの票数を明示する必要はありません。

但し、特別決議の場合には、その数を議事録に記載しなければなりませんので、参加者から要求がなくてもそれぞれの票数を明示することになります。
 (詳しくは「議決権行使の賛否割合表示」の項を参照してください)

(注1)
「二重多数決方式」
国内法で二重多数決方式をとる例は区分所有法以外では余り例がありません、国際法ではたとえば、2007年6月21日、ブリュッセルで開催されたEU首脳会議でEUの新基本条約について、議長国のドイツは二重多数決方式を提案しています。
「加盟国数の55%以上が賛成し、賛成国の人口がEU総人口の65%以上なら可決」とする内容です。管理組合の性格はEUに近い(?)のかも。

(注2)
一人の区分所有者が複数の専用部分を所有している場合でも、区分所有者としての定数は一人と計算する。

 「建物の区分所有関係における意思決定に、財産権としての面から各区分所有者の有する区分所有権の大きさ、 すなわち持分による多数の意見で決めるだけでなく、一つの管理共同体としての面からその構成員である区分所有者の数による多数の意見を反映させなければならないとの考慮に基づくものである。
したがって、1人の区分所有者が複数の専有部分を所有している場合でも区分所有者としての議決権は1票と解するのが相当である。」 (平成13年1月31日 神戸地裁判決 建替決議無効確認請求事件 平成9年(ワ)第1842号、平成10年(ワ)第115号、平成10年(ワ)第736号 判例時報1757号123頁)

4. 総会終了後の事務

1.総会が終ったら何をしますか

(1) 議事録の作成
 議事録には、開催日時、区分所有者総数、総議決権数、議題・議案の要領、報告事項の概要、重要な質疑応答、採決の結果、賛否の区分所有者数、議決権数を記載した上で、議長並びに出席者が記名押印します。

(2)理事会の開催 [議案]
 理事長(代表理事)、副理事長及び会計理事等の選任
 新旧役員による 事務引継ぎ
 理事会議事録の作成及び議長並びに出席理事の記名押印

(3)法人組合の場合は法人代表理事変更登記を法務局に提出(総会後2週間以内)

(4)県税事務所・市区町村納税窓口への代表理事変更届提出

(5)市(区)役所の資源ごみ回収協力団体登録事項変更届出書

(6)区分所有者へ総会決議事項を通知します。
  理事会での代表理事の選任、各理事の分担決定もあわせて通知します。

(7)町内会・自治会への代表理事変更の通知 (地域コミュニティとの円滑な連携のため)

(8)契約損害保険証書の代表者変更手続き

(9)定期保守業者(EV.防火設備、簡易専用水道の各保守業者)への通知

(10)会計帳簿、議事録等の閲覧請求のための備え置きとその場所の掲示

Epilogue  


− 結局のところ、民主主義は合意に基くものだが、合意を形成するわけではない。
また、それは国民の間にかなりの共通点があると想定しているが、共通点を作り出すわけではない。 そして、民主主義がうまく機能するのは、分配できる資源が増加し続けていて、ゼロ・サムやマイナス・サムの選択を迫られないときなのだ。 しかし、今日、民主主義はこうした条件を何ひとつもっていない。 −

 Lester C.Thurow([The Future of Capitalism ]Chapter 13 : Democracy versus the market 
(マサチューセッツ工科大学 経済・経営学教授 レスター・C・サロー著 山岡洋一/仁平和夫訳TBSブリタニカ発行「資本主義の未来」 第13章「民主主義」対「資本主義」 P325 ) − より引用

現実に対して無知な者ほど紋切り型の決まり文句を使います。
「総会は民主主義に則って行わなければならない」というのは勿論正しい。
しかし、管理組合運営の実務に携わったことのない者に、「民主主義の概念と、民主主義が現実にどのようにして存在するかという事の間には大きな溝が存在する」 という事を理解させるのは難しい。

管理組合運営の実務では、社会制度のもつさまざまな歪(ひずみ)に直面する。
それを外側から設定された倫理的な単一の価値の視点から捉えても、単なる自己満足や言葉の遊び、観念論に過ぎず、何の解決にもならない。

現実の問題ではそのコミュニティが持つ内在的な価値によって判断し、 内なる論理を見いだし、尊重することが問題解決の重要な手法となってくる。これはファッシリテーションの基本でもあります。(注3)

そのコミュニティが持つ内在的な価値というものは、 生活弱者の視点でコミュニティの内側から謙虚さをもって見つめることでしか得られないものなのかも知れない。
フイリップ・マーロウの科白をプロローグで紹介したのは、そのすべてを一言で表しているように思えたからです。

(注3):ファッシリテーションの詳細は 「管理組合総会」 「6. 合意形成のプロセス」 参照

(著者あとがき)