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6.建物診断

 建物診断の必要なタイミングは、大規模修繕時だけではありません。

1. アフター点検の期限がきれる前

 この時期の診断の目的は、主に「建設時の施工不備」や「現況と竣工図面との違い」等のチェックになります。ですから第三者の専門家による診断であることが非常に重要です。この期間内であれば、交渉もスムーズに進みやすくなります。

品質確保促進法(2000年4月1日施行)において基本構造部分の瑕疵担保責任期間は10年と定められました。品確法以前のマンションであっても、アフターサービス規準によって、屋上防水などは10年という保証期間になっている場合がほとんどです。築後10年になる手前で、第三者機関の建物診断を受けることは、管理組合にとって大きな意義があります。

2. 長期修繕計画を作成する時

 マンション独自の長期修繕計画を新規に作成する場合は、建物診断が不可欠です。部位別に工事の実施時期、範囲、仕様の見通しが立ち、工事費概算もかなりの精度で把握できます。

3. 大規模修繕の前

建物の劣化の進行は、築年数だけでなく建物の性能(工法、施工の精度)、形や向き、日常のメンテナンス、立地条件などによってかなり違いがでます。診断結果は、大規模修繕の内容や工法を検討する重要な基礎資料となります。

4. 築後20年以降

この時期になると、物理的劣化と並んで社会的劣化も相当進んでいます。  見直すべき項目はマンションごとに大きく変わってきます。 建築関係の診断だけでなく設備(給水管、排水管等)の調査から機械設備含めて、広範な診断と検討が必要になります。

5. 建物診断ってどんなことをしているの?

○ 竣工図面等の確認

  建築士は、竣工図面、修繕の履歴、アフターサービス規準書、管理規約に目を通します。

○ 住民アンケート(区分所有者に対する意向調査)の分析
  アンケートで、住民が不安に思っていることや要望を集めて分析し診断の参考にします。例えば、雨漏りの有無と状況、バルコニーの床や天井のひび割れや排水状態などです。回答から注意すべき傾向が見えてきます。

○ 建築士による目視、触診、打診
  最初から過剰調査にならないように、まずは全般的な把握としての一次調査を行い、その結果として必要性がでた場合のみ二次調査という段階的な実施が効率的です。

  一次調査の実施内容例
   ・全体目視及び壁面降下調査(目視、打検、触診)
   ・機械測定調査
   ・コンクリート中性化深度試験
   ・既存塗装材付着強度試験
   ・コンクリート圧縮強度試験
   (シュミットハンマーによる非破壊試験)

 以後必要に応じて、精密測定機器の使用、試験場でのコンクリート破壊試験等を二次調査として実施する場合もあります。

○ 建物診断の報告書の作成
  どのように改修するべきかの改修基本計画と、適切な工事方法について検討します。

○ 診断結果を管理組合に報告
  結果をわかりやすく管理組合に報告します。
  今後の適切な修繕のための十分な判断材料を示し、アドバイスすることまでが建物診断です。

6. 調査・診断技術 非破壊調査と破壊調査

建物を調査・診断する技術には、建物をそのままにして行う非破壊調査と、建物の一部をサンプルにして行う破壊検査がある。 測定した結果は、修繕が必要かどうか、必要なのはどのような修繕か等の判断に活用される。

(1) 外壁タイル浮き・剥離診断技術(赤外線サーモグラフィ法)

概要:赤外線サーモグラフィカメラ使用して、外壁面の赤外線画像(熱画像)から、タイルやモルタルの浮き表層部の欠陥を検出する。

隣接建物による調査・診断範囲の制約あり

<2) 鉄筋の調査技術(電磁誘導法)

概要:コイルに交流電流を流し、インピーダンスの変化により、かぶり厚さを測定する。 また、起電力の強弱を感知することで鉄筋位置が測定でき、さらに磁束の振幅の変化によって鉄筋径を推定する。
(左図)電磁誘導法による鉄筋探査の例

(3) 設備配管の腐食調査技術

概要:設備配管改修工法を決定するために、非破壊により配管の劣化を調査することができる調査方法として超音波肉厚測定、内視鏡調査、X線調査等が使用される。

非破壊検査技術の適用性
  隠蔽部 管種類 肉厚 錆こぶ
超音波肉厚調査 × ×
内視鏡調査 ×
X線検査 ×

7. 躯体コンクリートのひび割れの評価

躯体・外壁のひび割れ調査は、ひび割れの規模・形状を測定するだけでなく、 収縮・中性化の進行など、ひび割れの発生要因についても把握する。

(1) 原因推定
(a)ひび割れ先行型乾燥収縮、温度差など
(b)腐食ひび割れ中性化、塩害など
(c)その他アル骨、不同沈下など

(a)のひび割れはひび割れ幅から劣化状況を評価するが
(b)(c)のひび割れについては、さらに詳細調査(例:はつり調査(左写真))を行って、 劣化の現状(かぶり厚さ、中性化深さ及び鉄筋の腐食状況)について把握する必要がある。

(2) 劣化状況の評価
まだ顕在化していない劣化についても、調査・診断によって早期に発見し、適切な補修を行う必要がある。 例えば、外観のひび割れ調査において、鉄筋腐食が疑われる場合には、はつり調査を行って、 鉄筋の腐食状況を直接確認するとともに、中性化深さの測定を実施する。

鉄筋コンクリート躯体の劣化度の評価基準(鉄筋腐食を対象とした場合)
評価 外観の劣化症状 鉄筋の腐食状況
健 全 めだった劣化症状はない 鉄筋の腐食度はU以下
軽 度 乾燥収縮等による幅0.3mm未満のひび割れが認められる(腐食ひび割れはない) 腐食度Vの鉄筋がある
中 度 鉄筋腐食による幅0.5mm未満のひび割れがみられる 腐食度Wの鉄筋がある
重 度 鉄筋腐食による幅0.5mm以上のひび割れ、浮き、鉄筋の露出などがみられる 腐食度Wの鉄筋がある、あるいは大多数の鉄筋がW

(参考)日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の耐久性調査・診断および補修指針(案)・同解説,1997年

8. 仕上げ材の付着強度の測定

仕上げ材の付着強度の測定は、建研式引張試験器を用いて、試験個所に接着したアタッチメントに引張力を与え、仕上げ材の付着強度を測定。
継続的な利用の可否、塗り替えの要否等を判断するために活用する。

9. 設備配管の残存寿命の評価

サンプリング法による腐食状況の観察と残存肉厚の測定をもとに残存寿命を推定

 

出典:
国土交通省・持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会資料別紙2