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コンドミニアム裁判所 判決  No. 2018 ONCAT 3

判例6. 不誠実な管理業者にペナルティ(前編)

第1部 「概要と争点整理」 目次
   まえがき    概要    争点1 ・・原告には要求する権利があるか?
   争点2 ・・・被告は料金を請求することができるか?
   争点2.a ・・被告は関連費用を請求することができるか?
   争点2.b ・・法のもとでの適正な費用は幾らなのか?
   争点2.c ・・料金を支払うまで文書の引渡しを保留する権利があるか?
   争点2.d ・・料金は誰に対して支払われるべきか?
   争点2.e ・・被告はどのような料金を請求できるか?    [訳注]

第2部 「不誠実な管理業者へのペナルティ(後編)」 目 次
   争点3 ・・・不誠実な管理業者に対して費用の請求または違約金を課すことができるか?
   判決
   [あとがき]
     (1) 絶望の裁判・希望の裁判   (2) 国民性の違い    (3) 委託契約の基本原則 
     (4) 日本の過料20万円との比較

まえがき

カナダ・オンタリオ州コンドミニアム裁判所(Condominium Authority Tribunal (the CAT) )の判例をシリーズでご紹介しています。

管理業者の不誠実な対応に対してペナルティとして区分所有者への違約金支払を命じた事例です。

日本のマンション管理適正化法第70条(信義誠実の原則)は、違反した業者への罰則もなく、単なる訓示規定に過ぎず、 日本では管理会社の信義誠実原則を無視した不誠実な対応や背任、詐欺行為は常態化していますが、 それらを規制する法律もなく野放しの状態です。

 日本の現状 「マンション管理適正化法の限界」 > 
   第5章 管理会社の適正化法違反は国交省地方整備局に申告しよう! >
    (2) 整備局への相談事例 > 【マンション管理適正化法における信義誠実の原則】

それをカナダのコンドミニアム裁判所の裁判管は15頁もの長文の判決で裁定しています。

コンドミニアム裁判所 判決

法の適用条項 コンドミニアム法(1998)1.44項
裁判官: マイケル・クリフトン (Michael Clifton)
原告:  シャヒード・モハメド(Shaheed Mohamed:区分所有者) 代理人弁護士 なし(本人訴訟)
被告:  ヨーク・コンドミニアム・コーポレーション(York Condominium Corporation :管理会社)
     代理人 スロボダン・パブロフスキー (Slobodan Pavlovski):管理会社マネージャー
聴聞: 2018年4月3日〜9日 オンラインによる聴聞
判決: 2018年6月7日

REASONS FOR DECISION 判決理由

A. INTRODUCTION 概要

[1] 原告シャヒード・モハメドは、 被告ヨーク・コンドミニアム・コーポレーションが管理するコンドミニアムの区分所有者であると同時に、 管理組合の理事長(president of a “Homeowners Committee” of unit owners)でもある。 しかし、本裁判における原告は所有者個人としての提訴であり、管理組合の代理人たる理事長の立場ではない。

[2] 被告は管理会社ヨーク・コンドミニアム・コーポレーションであり、同社のマネージャーであるパブロフスキーが代理人となる。

[3] 原告は被告に対し下記の正式な記録文書の提出を求めてこの裁判を提訴した。
 即ち、コンドミニアム法1998(以下「法」と呼ぶ)で備えておかなければならない法定帳簿として規定されている文書の、 2017年11月2日時点における当該会計年度の財務諸表と会計証憑、 議事録等の記録文書(以下、「要求記録文書」と呼ぶ)及び、過去から現在に至るまでの同記録文書(以下、「その他の記録文書」と呼ぶ) である。

[4] 原告は、裁判所の提出命令なしにこれらの記録文書の提出を要求する行為は、要求している文書が機密情報に属しており、 丁重に敬意を払って行うべきことであることは承知していた。

[5] 本事件の当事者双方から提示された本質的な要点は下記の通りである。

 a. 原告の陳述によれば、原告が被告に記録文書の提出を要求したのは、2017年11月3日である。 その後、被告からの回答はなく、その結果、原告は本裁判所に提訴したと述べた。

 b. 原告の陳述によれば、被告が原告から記録文書提出の要求を受けたのは、2017年11月2日である。 しかも、2017年11月3日には、原告から要求された記録文書を、原告がピックアップできるように準備していた。
また、被告は原告の記録文書の提出の要求に応えるための回答文書(被告回答書)を原告に引き渡したと述べた。 被告代理人はこの被告回答書を原告に引き渡したのは、様々な理由で、2017年11月3日あたりであると述べた。

 当事者間には、事実を見出すには不十分な証拠による、さまざまな不一致の要因が存在しているが、 いずれにせよ、全体の問題から見て判決を組み立てるには必要のないことと判断する。

[6] 議論の余地のない紛争要因としては、原告から被告に対して、 2017年11月2日若しくは3日の正式な記録文書の提出要求があったということであり、 聴聞を通じて判明したことは、被告は要求された全ての記録文書を提供していなかったということである。

 被告の回答が実際に準備されたのか、被告代理人によっていつ提出されたのかどうかについては、 裁判官は後のこの判決における理由説明の中で述べている如く、原告の主張がより信頼できるものであることを確信した。

[7] この事件の判決にあたっては三つの争点が認められる。
 争点1:原告には区分所有者及び抵当権保持者の記録文書を含むすべての記録文書を要求する権利があるか、
 争点2:被告には法を遵守して記録文書の提出要求に応えるための費用を請求する権利があるか、
 争点3:原告が要求した記録文書の要求とその処理に関する行為についての責任、 及びその費用負担を被告に負わせることができるか、そしてまた、原告の利益になるような違約金(penalty)を命じることができるか、 ということである。

[8] 争点1については、原告にはすべての文書を要求する権利があると断定した。
 争点2については、被告には法的に見れば費用請求の権利があるとはいえ、
 実際の費用請求は法に準拠して行われたものではないから、適切な費用の算定についてはこの判決において示すこととした。
 争点3については、本事件の費用及び原告の利益となる被告への違約金(penalty)は以下の判決理由において示すものとする。

[9] 本判決において示す「法」とはコンドミニアム法1998であり「規則」とは法に規定されている規則を示す。

B. ISSUE & ANALYSIS 争点と分析

争点1:
  原告には区分所有者及び抵当権保持者のすべての記録文書を要求する権利があるか?

[10] 上記については、裁判官は原告にはすべての文書を要求する権利があると認定した。

[11] 下記に示す主要な部分の記録文書に関する電子的手段による提出の要求
    主要な部分の記録文書(core records ):
 a.  区分所有者及び抵当権保持者の名簿
 b.  管理組合の現在の年度の会計予算
 c.  管理組合の直近の承認された会計報告書・財務諸表
 d.  管理組合の直近の監査報告書
 e.  管理組合の現在の年度の積立基金予算書

[12] 下記に示す関連して付随する記録文書に関する電子的手段による提出の要求
    非主要な関連記録文書(non-core records):
 a.  2016年11月から2017年11月までの被告理事会の議事録
 b.  2010年11月から2017年10月31日までの毎月の銀行の公式残高報告書
 c.  すべての契約書類、2014年から2017まで
 d.  建物保険、2010年から2017年まで
 e.  植栽費、除雪費、ゴミ処理費、受信料、2010年から2017年まで
 f.  環境衛生費、2010年から2017年まで

[13] 被告の代理人は、区分所有者と抵当権保持者に関する情報を除いて、要求された記録文書のすべてを作成できると明確に述べた。

[14] 被告は、当裁判所に下記を陳述した。
 「コンドミニアム法1998 S.O. c. 19、55(4)(c)の規定により、 我々は、所有者と抵当権保持者に関する記録文書の写しの提供については、原告の要求に応じることはできない。 その他の要求については、文書の提供と引き換えに原告が文書の料金を支払うことを条件として、 我々は原告が要求する文書を提出することは可能である。」

[15] 法の55(4)(c)は、区分所有者に部屋番号や区分所有者名を特定できる個人情報の閲覧や写しの提供を受ける権利を与えていない。
法の55(4)(c)は、法の55(5)に規定する条件を除いて、 特定の部屋番号や区分所有者名に関しての情報の閲覧や写しの提供を禁止している。

法の55(5)で挙げている条件とは、部屋番号や区分所有者名を特定することを目的としないことに疑う余地のないケースということであり、 その場合は、55(4)(c)を適用しない。

55(5)(c)に記述されているケースのうちの一つとして、 法46.1で定める管理組合を維持し、守るための情報の閲覧や写しの提供がある。

区分所有者と抵当権保持者に関するそのような記録文書は、要求に応えて閲覧や写しの提供に応じなければならない。

[16] 以上により、原告は被告が保管している区分所有者と抵当権保持者に関する情報を、 求めに応じて被告から提供される権利を有する。他のすべての主要な、若しくは非主要な情報についても同様である。

[17] 裁判官は、そのような記録文書は原告に対して提供されるべきであると判決のなかで命じる。

争点2

争点2: 被告は法律に従って料金を請求することができるか?

[18] この争点は、被告が当裁判所に提出した回答書と陳述書によって提起されたものである。 すなわち、被告はすでに原告が要求していた会計記録文書の写し(以下「財務諸表」という)を準備していて、 原告が代金を支払えば、ひき渡すことができたというものである。

被告の陳述書によれば、被告の代理人は原告が料金を支払わない限り、その他の記録文書もまた引き渡されないとも述べている。

被告はまた、他の記録文書を提供する事に関する料金の設定はできていないが、聴聞の時に同時にその額を請求するつもりであると述べている。

[19] この問題を分析する上で、かつて原告に記録文書が提供されたことがなかったにも拘らず、 実際のところ、被告にその意思があったのかなかったのかの裁判官としての質問は、この際、脇に置くこととした。

いずれにせよ、原告は、彼が要求した記録文書を準備するための人件費と関連費用は要求されるべきではなく、 要求した記録文書は原告が支払うまで提供を保留されるべきではない。
更に、料金の設定が本件提訴後に被告の回答と共にこの裁判所に提出されたことは法に基づいているとはいえないと主張した。

[20] 裁判官は、被告には要求された記録文書を準備することに巻き込まれた労働のための料金を請求することの権利を与えられていると判断する。 また、記録文書の提供に先がけて料金が支払われる必要があるけれども、 被告により請求された料金の設定は適用可能な法には従ってはいないと判断する。

[21] 被告の回答は料金を次の通り説明する:
 要求の記録文書を準備するための料金は人件費として、252.00ドル(≒21,420円)プラス消費税、 コピー代は42.75ドル(≒3,634円)プラス消費税、 小計$294.75(≒25,054円)プラス消費税である。消費税は38.31ドル(13%≒3,256円)、 人件費及び電子複写代の総合計は333.06ドル(≒28,310円)である。(注21)

[22] 被告は裁判所に対し、本訴裁判費用追加分の費用も他の要求記録文書と同じ基礎に基づいて算定されると述べた。

[23] 被告の代理人は、すべての支払は被告(法人)に対してよりも被告代理人に原告から直接支払われるべきであると述べた。

[24] この争点への完全な回答を提供するために、本裁判所は以下の質問を考慮しなければならない:

  a. 被告は財務諸表・会計記録文書のコピーを提供する費用を相手に課すことができるか?
  b. 料金の請求は法に則っているか、そうでないなら法のもとでの適正な料金とは何か?
  c. 被告には相手が料金が支払うまで記録文書を提供することを保留できる権利
    が与えられているか?
  d. 料金は誰に対して支払われるべきか?
  e. 被告は、要求された他の記録文書のコピーのためにどんな料金を請求するべきであるか?

争点2.a

争点2.a : 被告には財務諸表・会計記録文書を提供するための関連費用を請求する権利が存在するか?

[25] 被告の回答によれば、2017年11月3日か或いはその前後で、 原告が要求した書類はすでに作られていて、提供の準備はできていたと述べているが、本件提訴後の回答書面で 料金の支払請求を正当化するための法55(6)の引用が為されたことは、 明らかに時期的に法律の正しい引用とはいえない。

[26] 現在のコンドミニアム法(condominium Act 1998)が定めている料金に関する規定は次の通りである。

  a. 法55条3項の規定では、
 「管理組合は、区分所有者、購入者、抵当権保持者、若しくはそれらの代理人を証明する公的な文書を持つ者に対して、 規則に則って管理組合の記録文書を閲覧または写しを提供することを許可しなければならない。」

  b. 法のサブセクション55条3.1項(c)の規定では、
 「法の規定に基づいて管理組合の記録文書を閲覧または写しを請求する者に対して、管理組合が特別な料金を課すときは、 その料金は記録文書の閲覧または複写することに関係した費用の範囲内とする。」

  C. 施行令48/01(※)3.3項(7)は、
記録文書の閲覧または写しを得るために管理組合が料金を区分所有者に課することを可能としている(但し、必須とはしない)。

  d. 施行令48/01の13.3(8)と13.3(9)では、
そのような料金を設定するときの条件と考慮される要素は、管理組合の決定に委ねられている。

[27] 原告は法55条(3.1)(c)は、「写しに・・関係する」とある部分は、 複写するための費用のみであり、その複写をするための労働に対しての対価ではないと主張する。
この見方は、施行令48/01の13.3(8)の1が示している、「管理組合が記録文書の写しを提供するときの料金については、 実際の労働と提供の対価費用は受益者が弁償する」と意図している内容とは一致していない。

[28] 法と規則のこれらの条項の法的効力は、被告が料金を請求することの権利を与えられているということであり、 原告は写しを得るかわりに、その複写に関わった人件費の支払いを事業者から要求されるということである。

(※) 施行令48/01はコンドミニアム法1998(condominium Act 1998)の施行令(regulation 48/01)を指しています。

争点2.b

争点2.b : 料金は法に従って請求されるか否か、そして、法のもとでの適正な費用は幾らなのか?

[29] 法の下の費用算定基準は二つある。人件費と電子複写費用である。

[30] 閲覧のための、または記録文書の写しの料金を設定する時に管理組合により考慮される完全な条件と要素は、 施行令48/01の13.3(8)と13.3(9)に次の通り規定がある。

施行令48/01の13.3(8)
   要求に応じて支払われる料金は、以下の方法に従って設定される。

1. 料金は事業者が記録文書を調査しコピーを提供するために費やした合理的な人件費とコストに基づいて査定されなければならない。 それらには施行令48/01の13.3に規定されている記録文書の印刷、電子複写の費用、及び実際に事業者が負担している人件費を含む。

2. 料金は合理的妥当なものでなければならない。

3. 理事会は印刷又は電子複写の料金を1頁あたり20セントを超えない範囲に設定しなければならない。

4. 主要な記録文書(core records )の閲覧、複写の要求に関して、それらの記録文書を電子版(in electronic form)で提供する場合には、 どのような料金も課してはならない。

5. 主要な記録文書(core records )の複写の要求に関しては、 施行令48/01の13.3に規定されている記録文書の印刷、電子複写の費用、及び実際に事業者が負担している人件費以外は請求してはならない。

6. 主要な記録文書(core records )の複写の要求に関して、下記の場合は事業者は料金を請求してはならない。

:記録文書の紙への複写及び電子版での提供に関してはいかなる料金も請求してはならない。
:施行令48/01の13.3に規定されている上記以外の記録文書で、施行令180/17,s,17(1)に規定されている文書に関して、 メール添付文書での提供を要求された場合にその方法に応えることが出来ず、紙文書での写しによる提供の場合は、 いかなる料金も請求してはならない。

施行令48/01の13.3(9)
   文書要求に対して料金を課すことができる要素は以下の通りである。

1. 要求された文書の内容が主要な部分の記録文書であるか否か。
2. 要求された記録媒体がメール添付文書または紙への複写であるか否か。
3. 要求された提供手段が閲覧または紙への複写であるか否か。
4. 要求された文書の内容が元の文書を調査又は編集を必要とするものか否か。
5. 要求された文書を準備するのに要する時間の見積は、施行令180/17, s. 17 (1)の算定基準に基づいているか。

[31]  被告の代理人は、回答書面において、料金は以下の要素に基づいて決定したと回答した。

料金と人件費:
   時給:1時間あたり63ドル
   所要時間:4時間 -文書は2010年3月から2017年10月までの文書群の中から抜き出して複写し、 月別にホッチキスで留めて、年度別のフォルダに仕訳した。

   複写枚数:159ページ 複写代:1ページあたり0.26ドル

[32]  裁判官は、下記の理由により、この料金が設定された要素と条件が実際とは異なることに気づいた。

[33]  最初に、時給:1時間あたり63ドル+消費税に関しては、施行令48/01の13.3(8)の2号の規定に反しており、 妥当とみなす事はできない。 被告の代理人は何度もこの時給がコンドミニアム管理業務請負契約に基づいているかどうかを尋ねられた。 最初の回答では「わが社の請求時給は産業平均に基づいている」としていたがその証拠を示すことはできなかった。 後になって、実のところ、その料金は複合作業の要素を合計した(collaboratede)ものだと述べた。

1時間あたり63ドルのレートがその「実際の労働と配達コスト」のための被告の代理人の支払いの本当のレート、 または問題の作業別産業平均を表していることはありそうにないと推定せざるを得ない。

裁判官が判定できる根拠が全くなく、述べられたレートは法に従って妥当であるとはいえず、または反している。

[34]  二番目に、複写代:1ページあたり0.26ドルに関しては、施行令48/01の13.3(8)の3号の規定による 1ページあたり0.2ドルの制限を超えている。加えて、法は要求文書が主要な文書であって、 メール添付での提供によることを求められ、それが可能な場合は、料金を課してはならないと定めている。

少なくとも原告が要求した文書のうちの幾つかは主要な文書であり、被告が回答しているように要求文書は2017年、 若しくは最近のものであり、被告の財務諸表・会計記録も含まれている。

施行令48/01の13.3(8)の4号の規定による「主要な文書」の定義には、施行令48/01の1(1)において、 理事会によって承認(コンドミニアム法66条3項)された直近の財務諸表を含むと規定されている。

[35]  裁判官は被告に対し、被告は料金を課すことはできるが、あくまでも法に従った適正な料金でなければならない、 適正な料金とは下記の条件を満たしたものであることを次の通り説明した。

[36]  下記の電子複写のコストに関してはいかなる料金も課すことはできない。

a.  原告が要求したすべての文書は主要な文書か否かについては、被告代理人は、 要求された文書はすべてそのように分別して提供できると回答した。

  注意すべきは、電子版で提供できるものには料金を課すことができないという点である。

主要な記録文書でないものに料金を課すことを禁止してはいないが、被告は料金を設定するときに、 記録文書が紙で保管しているものか電子化されて保存しているものかはひとつの判断要素になると回答した。

裁判官は、紙への複写が要求されていない段階で、 要求された非主要な文書の電子化に紙への複写の料金設定をすることは合理的ではないと気づいた。

b.  被告は要求された財務諸表の写しは既に準備できていると述べた。 それは非主要な文書に対して料金を課す事が出来るかどうかという質問に対してふさわしいものである。 被告代理人は、なぜそのような写しが作られたのかという質問に対して矛盾した回答をした。

彼は最初、原告はパソコンを持っておらず電子化した文書は受取れないと述べたから、被告はコピーを準備したのだと述べた。 後になって、被告は、原告が電子化した文書の受取りを拒否したのは、E-Mailアドレスをもっていないからだと述べた。 原告は、この説明の両方とも否定した。

裁判官は要求文書の中には原告のE-Mailアドレスを含む記録文書が含まれていることに注目する。 また、原告は電子化された記録文書の受取りのために、 USBメモリーの提供と電子メールでのドロップボックスアカウントの両方を申し出ていた。 これらは聴聞を通じて明らかにされたことである。

被告の矛盾した回答と比較することによって、裁判官は原告の主張には矛盾がなく、信頼できるものであることを認める。 原告にとって財務諸表が電子版で提供されるよりも紙への複写が必要であったということではないと推定できる。 このことは紙への複写の料金を請求する妥当性はないということになる。

[37]  料金のうちの人件費については、被告代理人は要求された記録文書を準備するために実際に費やしたコストであると述べた点については、 それを裏付ける適正で信頼できる証拠を提出することができなかった。

その上で、証拠を示すことは出来ないが、ユーザーへの請求時給は産業平均又は他の標準時給に基づき合理的に決定したものだとした。 結果として、裁判所はこの事例について合理的な算出基準を決定せざるを得ない状況に陥った。 裁判官は作業の種類と所要時間の両方を法に基づいて決定することにする。

[38]  被告代理人の回答書面によれば記録文書を提供するための基本的な作業要素として、 保管場所を探し、ファイルから抜き取り、複写し、原本に戻し、再びファイルに綴じる作業がある。 被告代理人は、それらの所要時間は、すみやかに目的にあった作業のみを計測したものであると述べた。

被告代理人はそれらの作業には特別な知識を必要とする補助的な作業もあるが、所要時間としてはそれらは省かれているとして、 所要時間としては示さなかった。

裁判官は、2018年1月1日時点におけるオンタリオ州の最低時給基準では、時間当たり14ドルであるが、 本件の作業が実施された期間の基準を採用すると、時間当たり11.6ドルであったことを考慮した。

裁判官は、被告代理人の回答書面による時間当たり63ドルが合理的な時給であるとの主張を受け入れることができない。

裁判官はまた、最低時給基準を下回る査定基準を採用する理由を見出すことができない。 本件においてユーザーに課す特別の料金を設定すべき根拠はない。

裁判官は、本件において採用すべき時給基準を最大に見積もっても現在の最低時給基準のほぼ2倍プラス消費税 (課税根拠として、作業実施主体が事業者よりもむしろ従業員であることによる)が限度であろうと推定し、 被告代理人が提示した特別に規定のない作業コストとしての31.5ドルが本件において適用すべき時給基準とした。

この基準価格は、被告代理人が提示した時給の半分をわずかに下回る金額である。 裁判官は、他の事例においては、この事例で提示した基準価格と異なる他の合理的な算定基準を示す証拠をもって提示されうることを認める。

[39]  被告代理人は財務諸表の写しを作成するのに4時間を要したと主張する。 原告は、要求のあった記録文書が電子化されたものであるなら、 紙の文書をスキャンし複写してファイルに綴じるより短い時間でできたはずだと主張する。

裁判官は、財務諸表原本が紙の文書であるか電子化された文書であるかを問わず、4時間という見積は妥当であると認める。 いずれにせよ、要求された文書は2017年の主要な文書が含まれている。 準備のために費やした時間は料金の計算から除くために調整されなければならない。

裁判官は、要求された年度ごとの財務諸表を全部コピーするのに各年度ごとにおよそ同じ量の時間がかかると仮定する。 従って、準備のために費やした時間として全体の時間から1/8を引き算するか、或いは30分とすることで調整される。 非主要な財務報告書を紙に複写する作業の人件費として110.25ドルの費用を請求したことに対して、基本とする時給は31.50ドルとする。

被告は、単純に紙に複写する作業の人件費として110.25ドルを費用として請求したことに対して、再度、 要求文書を電子版で提供する作業のための計算をやり直すことを要求されることはない。

争点2.c

争点2.c : 被告には相手が料金を支払うまで要求文書の引渡しを保留する権利があるか?

[40]  原告は原告が料金を支払うまで被告からの文書引渡しが保留されることが適正な行為なのか疑いを持っていた。

法はそのことを明確に定めている。すなわち、記録の閲覧やコピーに際して利用者が代金を支払うまでは、 管理組合はそれらの要求に従う義務はない。

従って、被告は料金が支払われるまで文書の引渡しを保留することは許される。

争点2.d

争点2.d : 料金は誰に対して支払われるべきか?

[41]  被告の代理人陳述書において、 料金は被告の代理人若しくは被告の管理会社ではなく被告代理人個人の会社に支払われるべきであると主張した。 その説明として、「我々はそれを管理費用として管理組合に請求しない代わりに、 我々が管理組合とは独立した独自の仕事として文書の提供を依頼されたものだからだ。 その根拠は、我々は法と条例によって認可された管理会社であり、料金を受け取るべき合理的な理由がある。」と述べた。

この主張は正しくない。法と条例の規定では管理組合と契約した管理会社のみが料金を課し、受け取ることのできる唯一の正当な組織として認めており、 他の団体には認めていない。

[42]  従って、原告はこの決定に従って、被告代理人若しくは第三者の団体のいずれでもなく、 被告の管理会社に直接支払うものとする。

当然ながら、当事者間の契約によっては、被告管理会社への支払を被告代理人若しくは第三者の団体にすることを妨げるものではない。

争点2.e

争点2.e : 要求された以外の文書の複写のために被告はどのような料金を請求できるか?

[43]  上で述べたように、今回の事例では、すべての記録文書は電子化されて提供される金額を適用し、紙文書での提供料金は適用しない。

これに関連する費用としては人件費だけである。また、財務諸表以外に要求された他の残りの記録文書についても、 時給は31.50ドル(消費税含む)として適用されなければならない。

[44]  被告代理人は、要求された文書を準備するための費用の見積を原告から依頼されていた。 しかし、被告代理人は、 「我々は調査、コピー、その他の多くの要求文書についての所要時間など、実際にその作業を開始するまで知りたくもない。 その作業は毎日やっている作業でもないし、日々の標準作業でもないからである」として、それを拒否した。

しかしながら、上で述べた如く、法の上でもコストの合理的な見積は必要な要件と定めている。 従って、被告代理人が見積を拒否したことは適切な行為ではない。 被告がそれをしなかったので、要求文書の作成に必要なコストの算定は裁判所として決定し、本判決で命じることとする。

[45]  主要な記録を電子化文書で提供することに関しては人件費及び紙への複写代金はどちらも料金は課されないことからして、 この事例では、紙への複写代金はすべて課されない。唯一の支払うべき料金は、要求された文書のうちの非主要な文書に係る人件費だけであり、 それだけが、敬意を持って支払を課されるべきである。

[46]  被告の回答書にある財務諸表の紙への複写にかかる費用を考慮に入れると、 被告の代理人が記述している作業の種類は電子化文書で提供される場合の例えば、検索、スキャン、 記録データの格納などの作業になる。そしてまた、文書がもともと電子化されているなら、時間は更に短縮される。

裁判官は要求された他の非主要な文書を含む全ての文書を準備するのに要する合理的な時間を12時間と査定する。

時給を31.50ドルとして、費用の合計を378ドルとする。

被告が全ての文書を引き渡した後、30日以内に原告は被告に料金を支払うものとする。

ー 続き ー  【次頁】  判例6. 不誠実な管理業者(後編)

[訳注]

(注21)理解しやすいように消費税と書いてますが、正確にはハーモナイズド・セールス税(HST)です。 税率(13%)及び円換算レート(85円/加ドル)は判決公布日(2018.6.7)時点のものです。

2019.5.5 掲載