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組合文書の電子化の注意点

 電子化の目的は2つあります。膨大な文書を圧縮して保管するアーカイブと、 省力化を目的としたコミュニケーションツールとしての電子化です。

アーカイブとしての電子化の例としては、建物設備図面(原設計図面)を分譲時にゼネコンからCADデータ(※)をDXF形式やDRW形式で受けとってCDで保管している管理組合があります。 これによって定期点検から修繕工事までの各段階における生産性は各段に上がります。 また、分厚い規約・細則集や点検記録などもCDやDVDで保管しているところも今では普通になってきました。

効率化・省力化を目的としたコミュニケーションツールとしては、平成14年改正の区分所有法で第39条の第3項が新設され、 会社法第298条で規定されている株主総会の議決権行使方式と同じく、議決権の行使をホームぺージやメールで行えるようになりました。

特に遠方の区分所有者にとっては便利ですが、一方で区分所有者間のデジタルディバイド(digital divide : 情報格差)への配慮や個人情報保護の仕組み、 更には、文書の改竄(かいざん)防止対策など、社会的配慮とリスク対策のしくみが必要になってきます。

 区分所有法では、紙の文書配布に代わるパソコンを利用したファイルへの記録、保存、閲覧・公開などについては、 積極的に認めてその利用方法についての定義とルールを定めていますが、 一方で議事録の電子化については厳しいハードルを設けて一定の歯止めをかけています。

(※) ゼネコンはパソコンを使ったCAD(キャドComputer Aided Designの略)で建物を設計しています。 平成8年に国土交通省により策定された建設CALS整備基本構想を契機とし、調査・設計業務及び工事における電子納品制度の導入が推進され、 「電子納品要領」やガイドライン及び「CAD製図基準」が定められ、 公共事業に限らず民間工事でも事業者間でのCADデータでのやり取りは当たり前になっています。

そのデータはCADベンダー各社でフォーマットが異なりますが、多くのCADでは標準機能としてDXF(Data Exchange file)と呼ばれる業界標準フォーマット (もともとは販売数世界Topの米国Autodesk社のAutoCADの中間ファイル)やAutoCADの出力ファイルのDRW(ドロゥDraw)、 或いは国内建築CADで最も使われているJW CADによるJWC形式などへの変換機能があり、いずれもCADソフトがあればそのままパソコンで図面に復元できるベクトルデータです。

スキャナーで読み取ったTIFF形式などの画像データは点(ドット)の集まり(ラスターデータ)ですから拡大すると画像は劣化して見るに耐えないものになります。 画像に手を加えて再利用することもできないので、不正確、かつ、おおまかな参照用としての用途にしか使えません。
一方、CADデータは線分の始点・終点座標や円弧の中心座標と半径など作図要素コマンドと座標データなどの集合からなるベクトルデータですから、拡大、縮小、修正を加えても劣化することなく そのままCADで画面や図面への出力もでき、更に作図修正への展開も容易です。

点検や修繕工事の見積・実施設計のたびに紙の図面集を貸与すると紙の図面集は傷んできます。 CDでCADデータを提供すると、業者も修繕実施設計や積算に元データをそのまま使えるので計画管理コストも低減できます。紙の図面も傷みません。

1.要点

1、電子化を容認した区分所有法の改正

「区分所有法」の平成14年12月11日法律第140号における改正によって
「規約・議事録等及び集会・決議の電子化等」に関する規定が追加されました。
           ○ 「区分所有法の改正履歴 (T)」

また、この追加条文の中で、「法務省令で定める」という規定は下記を指しています。
「建物の区分所有等に関する法律施行規則」(平成十五年五月二十三日法務省令第四十七号)
           ○ 「電磁的記録と法務省令第47号」

2.電子化にあたって検討すべき事項

インターネットの当該情報へのアクセスに関する情報、メール又はHpへのアクセス方法、パスワード等の本人認証方法等の機密性(※1)が担保されていること。

(※1)機密性
電子化文書等へのアクセスが許可されていない者からのアクセスを防止し、電子化文書の盗難、漏えい、 盗み見等を未然に防止するよう、保存・管理されること。


記録方式は、見読性(※2)、検索性(※3)、保存性(※4)が担保されていること。

(※2)見読性(けんどくせい)
(可視性と言う場合もある。) 電子化文書等の内容が必要に応じ電子計算機その他の機器を用いて直ちに表示又は書面に出力できるよう措置されること。

(※3)検索性
電子データは目で見えないため、全てのデータに対してアクセスする手段が必要。 見読性の確保の要件の一つとして、電子化文書等を必要に応じて、検索することができることをいう。 いつでも検索できるために、システムの信頼性・可用性が確保されていなければならない。

(※4)保存性
法定保存義務期間や組織内規程等によって定める保存期間中、復元可能な状態でデータを保存すること。

3.電磁的方法による議事録は認証機関を通した電子署名としなければならない。

 3.議事録への署名の法律上の規定 に詳しく解説しています。

2.区分所有法における電磁的記録と電子署名の規定

(1)電磁的記録とは
<各法令での規定> 「電子的方式、磁気的方式その他、人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、 電子計算機による情報処理の用に供されるもの」をいうと定義されています。一般的には記録メディア(媒体)上に記録・保存された電子データのことです。
民事訴訟法231条では、録音テープやビデオテープを準文書として例示しており、 平成12年に「電子署名法」が施行されたことにより、電子データも準文書と考えられています。

(2)電子署名とは
紙文書に対する署名や押印に代わるもので、電子化文書及び電子文書の改ざん検知を可能にし, 誰が作成した文書であるかを証明する技術のことで、電子署名法に基づく実印に相当するレベルのものから、 比較的手軽に使える認印や職印に相当するものがあります。

電子署名法に基づく電子署名は否認防止の機能があり、「電子署名が電磁的記録に行われているときは、 真性に成立したものと推定される。」とされています。

<電子署名法>電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

(3)区分所有法における電子化規定
「建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号)」における
電磁的記録と電子署名に関する規定は下記のとおりです。

第三十条
 第五項

(規約事項)
第三十条  建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

2  一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に 定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。

3  前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、 これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、 区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。

4  第一項及び第二項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。

5  規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、 電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により、 これを作成しなければならない。


(電磁的記録)
(解説)第五項の規定「法務省令で定める」は、
  「法務省令第四十七号」第一条で規定されています。
電磁的記録とは、磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を記録媒体に確実に記録すること。

第三十三条
 第二項

(規約の保管及び閲覧)
第三十三条  規約は、管理者が保管しなければならない。 ただし、管理者がないときは、建物を使用している区分所有者又はその代理人で規約又は集会の決議で定めるものが保管しなければならない。

2  前項の規定により規約を保管する者は、利害関係人の請求があつたときは、正当な理由がある場合を除いて、規約の閲覧 (規約が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を 法務省令で定める方法により表示したものの当該規約の保管場所における閲覧)を拒んではならない。

3  規約の保管場所は、建物内の見やすい場所に掲示しなければならない。


(電磁的記録に記録された情報の内容を表示する方法)
(解説)第二項の規定「法務省令で定める」は、
  「法務省令第四十七号」第二条で規定されています。
記録された情報の内容を紙面又は出力装置の映像面に表示する方法とする。

第三十九条
 第三項

(議事)
第三十九条  集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。

2  議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。

3  区分所有者は、規約又は集会の決議により、前項の規定による書面による議決権の行使に代えて、 電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて法務省令で定めるものをいう。以下同じ。) によつて議決権を行使することができる。


(電磁的方法)
(解説)第三項の規定「法務省令で定める」は、
  「法務省令第四十七号」第三条で規定されています。
電子メール(ホームページ上に表示された議決権行使フォーマットに入力して送信する方法も含む)若しくはメモリーカードなどの記録メディアを区分所有者に提供し 議決権行使フォーマットに入力して戻してもらう方法の2通りが規定されています。

株式会社の株主総会を書面又は電磁的方法で議決権を行使できる会社法第298条の規定と同じですが、 ただし、管理組合の場合、書面の議決権行使書による議決権の行使でさえ裁判で争点となりうる幾つかの問題があります。

例えば、@区分所有者本人の家族による代理署名は有効か、A専有部が数人の共有に属している場合の共有代表者選任届けの有無、 B区分所有者が死亡後、遺産分割未了の場合の代行者による代理権の確認、C認知症など意思能力の喪失が疑われる区分所有者の代理権、 又は後見人の存在の確認などの例です。(参考:東京地裁平22(ワ)第38641号「建物明渡等請求事件」等」

建替え決議のような各人の財産権の処分に関する重要な議案等で、特に瑕疵のない手続きが要求される場合は、慎重な検討が必要です。

第四十二条
 第四項

(議事録)
第四十二条  集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならない。

2  議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、又は記録しなければならない。

3  前項の場合において、議事録が書面で作成されているときは、 議長及び集会に出席した区分所有者の二人がこれに署名押印しなければならない。

4  第二項の場合において、議事録が電磁的記録で作成されているときは、 当該電磁的記録に記録された情報については、 議長及び集会に出席した区分所有者の二人が行う法務省令で定める署名押印に代わる措置を執らなければならない。


(署名押印に代わる措置)
(解説)第四項の規定「法務省令で定める署名押印に代わる措置」は、
  「法務省令第四十七号」第四条で規定されています。 具体的には、「電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)」第二条第一項の電子署名としなければなりません。

第四十五条
 第一項

(書面又は電磁的方法による決議)
第四十五条  この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、 区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。 ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。

2  この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、 区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす。

3  この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、 集会の決議と同一の効力を有する。

4  第三十三条の規定は、書面又は電磁的方法による決議に係る書面並びに第一項及び第二項の電磁的方法が行われる場合に 当該電磁的方法により作成される電磁的記録について準用する。

5  集会に関する規定は、書面又は電磁的方法による決議について準用する。


(電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾)
(解説)第一項の規定「法務省令で定める」は、
  「法務省令第四十七号」第五条第三項で規定されています。
「区分所有者の一部でも書面又は電磁的方法により電磁的方法による決議を拒む旨の申出があったときは、 法第四十五条第一項に規定する決議を電磁的方法によってしてはならない。 ただし、当該申出をしたすべての区分所有者が再び第一項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。 」と規定されています。

集会を開かずに、書面又は電磁的方法による決議を行う場合、全員の賛成が必要ということです。

3.議事録への署名の法律上の規定

総会議案書には、財務諸表中の監査報告書など、理事や監事の署名が必要なものがあります。 また、財務報告書の添付書類である銀行残高証明書にも銀行印が押されています。

電磁的方法による決議では、議案書は改ざんを防ぐために通常、PDF形式(※5)のデータで公開されますが、 署名押印が必要な文書でも管理組合総会議案書の場合は、株式会社の有価証券報告書と異なり電子署名は要求されていませんので、 紙に印刷して監事が署名した監査報告書や銀行残高証明書原本をスキャンしてPDF形式のファイルにすれば足ります。
ただし、収益事業を行っている組合がe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使って申告するときの会計帳簿はe-Taxの指定する方法に従います。

署名や押印のない通常の文書は、Adobe社のAcrobatソフトを使うと、作成したドキュメントソフトから直接PDFにフォントデータをつけて変換できますから、 スキャンした画像ファイルと異なり、画面を拡大してもフォントがノイズなしでそのまま表示されるので、画像変換した文字に見られる表示品質の劣化は起きず、 どんなに拡大してもきれいな品質のまま出力できます。 品質を考えれば、文書をスキャンして電子化するというのは個人の私的利用レベルの話で、商業用としてはあり得ません。

ただし、集会の議事録を電磁的記録とした場合はこれらの方法は使えず、電子署名にしなければなりません。 電磁的記録物そのものを謄本と等価とするために電子署名が義務付けられていることに注意してください。    謄本については注記の(※8)謄本 を参照してください。

紙に印刷した議事録に署名した原本を謄本として保管し、それをスキャンしてPDF形式のファイルにしたものを参照用として 公開・配布する場合は電子署名にする必要がなく、現実的な方法です。

民事訴訟法228条4項では「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と規定し、 同229条1項では、「文書の成立の真否は、筆跡又は印影の対照によっても、証明することができる」と規定しています。 それを証明する謄本が存在しており、電磁的記録物はその複製という位置づけになります。ちなみに管理組合が作成する文書はすべて私文書です。

集会の「議案書」と「議事録」に対する取り扱い方の違いは、後者が法務局への理事変更登記(法人組合)申請の添付文書であり、 更に議決の有効性を争う裁判の証拠書類として法的証拠能力(※6)としての真正性(※7)等が要求されるのに対し、 前者は組合内部の合意形成のための文書であり、その信用性の検証は組合自治に委ねられ、組合内部で完結しているためです。
ただし、前述したように、税務署への申告が必要な収益事業を行っている組合など、 その事務が組合内部では完結しない場合もあることに注意してください。

(※5)PDF形式
電子文書及び電子化文書のファイル形式の一つ。 Portable Document Formatの略称で、 ISO 32000-1:2008 PDF1.7およびISO 19005-1:2005 PDF/A-1、及びPDF/Eなどが標準化済みです。 継続して標準化が推進されている文書フォーマットです。

米国Adobe社によって開発されたPDFファイルは、 どのプラットフォーム(Mac、UNIXまたはWindows)やアプリケーションからでも使用できるもっとも一般的なファイル形式です。

その文書を作成したワープロソフトや表計算ソフトなどから直接PDFファイルに出力した場合、 作成フォントやレイアウト、配置された画像などの情報をPDFファイル自体に持たせることができます。
このことが、文書をスキャンして画像化した文書と異なり、表示を拡大・縮小しても表示画面や印刷物の表示品質は劣化せず、 さらに、PDF画像から元のテキストに逆変換できる理由です。

文書をスキャンしてその結果をPDFファイルにすることもできますが、その場合は、テキストを含めてすべて画像としたものを PDFファイルに貼り付けているだけですので、TIFF形式などの画像ファイルと同じく、拡大するとドットの集まりで表示され、 品質は劣化します。PDF画像から元のテキストに逆変換もできません。PDFファイルは作成のしかたで品質が異なるので注意が必要です。

PDFファイルは、無料で配付されているAdobe Acrobat Readerがあれば、誰でも共有したり、 中身を見たり、印刷したりすることができます。 PDFファイルを作成するためには、Adobe Acrobat(またはAdobe Acrobat Distiller)を購入する必要があります。

(※6)証拠能力
証拠とは特定の紛争における真偽や違法行為の存否を判断する根拠となるもので、 物的証拠(書証、物)、人的証拠(証人、鑑定人、当事者)があります。 本証とは訴訟時に、自分側が立証責任を負っている事実について、それを証明するために提出する証拠であり、 反証とは 訴訟時に、立証責任のない当事者が立証責任を負う相手方の申し立てた事実・証拠を否定するために提出する証拠をいいます。
証拠能力とは、その証拠を事実認定の資料として用いるための証拠の形式的な「資格」のことを云います。

(※7)真正性(しんせいせい)
文書の記載内容が、真実で正しいことを主張できる要件のことです。
電子化文書等の故意・過失による虚偽入力、書換え(改ざん・すり替え)、消去、混同、隠滅、破壊などがないこと。 かつ改変・改ざん等の事実の有無が確認・検証できることが条件となります。

区分所有法第四十二条により、議事録が電磁的記録で作成されているときは、認証機関を通した電子署名及び認証が要求されています。

(署名押印に代わる措置)として、 「法務省令第四十七号」第四条
「区分所有法第四十二条第四項に規定する法務省令で定める措置は、
電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)(注:略称「電子署名法」)
第二条第一項の電子署名とする。」と規定されています。

民間会社の場合は「会社法施行規則」第四章「電磁的方法及び電磁的記録等」(第二百二十二条〜二百三十八条)で規定されています。

会社法施行規則第二百二十五条第二項
(電子署名)
次に掲げる規定に規定する法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置は、電子署名とする。 〜(略)〜
2 前項に規定する「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、 次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

電子署名の要件は@「署名」目的のものであり、 A電子署名のされた情報(書類)が改ざんされていないかを確認できるものであれば良いという2つの要件だけです。

先に挙げた区分所有法第四十二条関連の「電子署名法」 第二条第一項でも同様に規定されています。

4.電子署名の種類と認証機関

Q1.電子署名法には、「主務省令で定める」とか「主務大臣が認定する」という言い方が出てくるけど、そもそも、主務官庁はどこ?

A1.電子署名法や電子署名法施行規則の主務官庁は総務省・法務省・経済産業省の3つが主務官庁です。 関連省令の「電子署名法施行規則」も連名で、「総務省・法務省・経済産業省令第一号」として公布されています。

憲法第74条は、「法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする」旨を定めています。
内閣総理大臣が連署するのは法律にあってはその執行の責任を、政令にあってはその制定及び執行の責任を明らかにするためです。
「主任の国務大臣」とは、総理府及び各省の長として、 行政事務を分担する地位における内閣総理大臣及び各省大臣をいう(内閣法第三条、国家行政組織法第五条)とされており、 当該法令又は行政について執行の責任を有する省が主務省ということになります。

ただし、単に罰則がもうけられているからといって、法務大臣が当該法令の署名大臣かというと必ずしもそうではなく、 従来から、処罰そのものを目的とした法令でなければ、 法務大臣が当該法令の署名大臣になることはありません。本法令が法務大臣署名なのは電子署名を扱う電子認証登記所が法務省の管轄だからです。
当該法令又は行政について執行の責任を有する省が複数の場合、連署する順番は、各府・省の建制順(国家行政組織法別表第一)となっています。

Q2.電子認証の安全性を守るしくみは?

A2.利用者が電子署名を行うために用いる符号(以下「利用者署名符号」という。)を認証事業者が作成し、 当該利用者署名符号を安全かつ確実に利用者に渡すことができる方法で交付することになっています。(電子署名法施行規則第六条第三項)
情報を暗号化して利用者に鍵を渡す仕組みですが、この暗号化の方法に関しても規定されています。

○ 電子署名法施行規則 第二条(特定認証業務)
法第二条第三項 の主務省令で定める基準は、電子署名の安全性が次のいずれかの有する困難性に基づくものであることとする。
(特定認証業務)
第二条  法第二条第三項の主務省令で定める基準は、電子署名の安全性が次のいずれかの有する困難性に基づくものであることとする。
一  ほぼ同じ大きさの二つの素数の積である千二十四ビット以上の整数の素因数分解
二  大きさ千二十四ビット以上の有限体の乗法群における離散対数の計算
三  楕円曲線上の点がなす大きさ百六十ビット以上の群における離散対数の計算
四  前三号に掲げるものに相当する困難性を有するものとして主務大臣が認めるもの

「素数」とは、1とその数でしか割り切れない数のことです。 100までの素数を並べると 2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,79,93,89,97 の25個あります。
1は素数に含まれません。

10,000までの数で最も大きな素数は9973です。これらの素数を使って素因数分解するのがいかに大変か(困難性)というところから、 これらの素因数分解が暗号に使われています。

例えば2つの鍵であける錠があるとします。暗号「5293」で鍵をかけました。
この数は、二つの素数の掛け算でできていますから、素因数分解してその素数を見つけなければなりません。
ちなみに答えは「67」と「79」です。「67」と「79」を掛けるのは簡単です。でも「5293」を素因数分解するのは大変です。 小さな素数から順番に割り算して行けばいいのですが、桁数が多くなるとこの計算にはとても時間がかかります。

(商業登記電子証明書の鍵ペアファイル)出典:法務省・電子証明書取得のご案内
(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00028.html)

電子署名の暗号に用いる方法は「ほぼ同じ大きさの二つの素数の積である千二十四ビット以上の整数の素因数分解 」と 定められていますが1,024ビット(2の10乗bit)以上の整数を素因数分解して、元の二つの素数を求めるのは 高速のスーパーコンピュータでも大変な時間がかかります。

今も解けない「リーマン予想」

1859年、ドイツの数学者リーマンが素数の並び方に法則性があるという「リーマン予想」を発表しました。 しかし、永い間誰も発見できず、その後米国のクレイ数学研究所が100万ドル(約1億2,400万円)の懸賞金をかけているのですが、 いまだに解けていません。素数には3と5、7と9、11と13のように差が2の組み合わせの「双子素数」がありますが、このペアが 無限にあるという「双子素数予想」も証明できていません。

リーマン予想の法則性が発見されたときには、素因数分解を用いた暗号がきかなくなるので、この「電子署名法施行規則第二条」に限らず、 世の中のすべての素因数分解を用いた暗号規則も改正されることになります。

認証機関

電子署名の信用性を高める(不正な電子署名を防ぐ)ために、第三者が公開鍵が送信者本人のものであることを証明し、 電子証明書を発行する、電子署名の認証が必要とされます。
発信者は認証機関に自己の公開鍵である旨の証明を求めると、認証機関によって電子証明書が発行されます。
この(発信者の公開鍵が含まれる)電子証明書を受信者に配信し、受信者がその公開鍵でメッセージを複合できれば、 そのメッセージは発信者によって作成されたものであるということが確認できます。
また、受信者が自ら発信者の公開鍵であることを証明する電子証明書を入手して、 発信者から送られてきたメッセージを複合すれば、そのメッセージが発信者によって電子署名されたものであると確認することができます。

この電子署名の認証によって、電磁的記録を受信した人が発信者本人によって電子署名がされたことが確認できます。
また、秘密鍵が他人に渡ってしまった場合に、認証機関による公開鍵の証明を中止することができるため、他人によって不正使用されることを防ぐことができます。

下記は商業登記に基づく電子証明書を発行している登記所の電子認証制度の仕組みです。

出典:法務省・電子証明書取得のご案内(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00028.html)

5.電子化文書の脆弱性 (ぜいじゃくせい)

1990年代後半のWindows95の時期からパソコンの利用が急激に広まり、電子化文書の作成が安価・高速にできる環境が整って、 作成される電子化文書の量も急激に増えてきました。 しかし、このように大量に作成されているにもかかわらず、電子化文書は以下の理由で様々な脅威に対して脆弱であり、 その法的証拠能力は紙文書やマイクロフィルム文書に比較すると格段に劣るとされてきました。

・改ざん、修正、すり替え等が容易で痕跡も残らない。
・システム障害、記録媒体の経年劣化等により内容の消失、変化のおそれがある。
・盗難、漏えい、盗み見が大量かつ秘密裏に行われやすい 。
・ディスプレイに表示又はプリントアウトするなどの措置を講じない限り、可視性・可読性に欠けている。
・元の紙文書が改ざんされている場合、電子化後の確認が困難。

また、電子化文書の利用者が最も悩む問題は、技術の進歩が激しくワープロ、パソコン、タブレット、 スマホなどの電子機器や記録媒体の急激な変遷と多様化(磁気テープ、ハードディスク、フロッピーディスク、光ディスク、 CD、DVD、USBメモリー、ブルーレイディスク・・・)及び、パソコンOS及びソフトウエアの頻繁なバージョンアップで、 以前の情報が物理的にも短期間に再現不能になることです。もはや廃語になる言葉もでてきました。 今使っているメディア(記録媒体)やソフトウエア(文書形式)がいつまで使用可能かなど誰も保証できない時代になりました。

創業以来の大量の技術文書(研究報告、特許、事故記録など)や製作図面をすべて保管している大企業では、 そのたびに、マイクロフィルムから光ディスクへ、そして今また、高密度磁気テープへとデータを移し変えてきました。 あくまで紙文書を残した上での参照用ですが、それでも大変な人員と経費をかけてきています。

改ざんを防ぐ認証制度にも問題があります。商業登記に基づく電子認証制度の電子証明書には証明期間(有効期間)があり、最長でも27か月しか有効ではありません。 発行手数料も異なります(3か月2,500円、27か月16,900円 平成27年9月現在)。 コミュニケーションツールとして使われる電子化文書の可用性の有効期限は短命であり、保存(アーカイブ)は別に考えなくてはなりません。

6.電子化文書の保管と管理に関する注意事項

組織が保管・運用している紙文書には、法令等によって保存義務を課せられているものと、課せられていないものがあります。 保存義務を課せられている紙文書を電子化して保管・運用する場合、 平成17年に施行された電子文書法を適用して紙文書の廃棄を行う方式が最も電子化の効果が大きくなります。 また、紙文書を廃棄することをリスクと判断する場合は、 電子化後の紙文書を郊外の文書倉庫等に保存して、 訴訟等がない限り人の手に触れさせないこととし、作成した電子化文書を参照用として日常利用する方法があります。

一方、例えば製造物責任法(PL法)のように文書の法的保存義務を法令等で定めていない場合でも、 電子化して紙文書を廃棄した後に訴訟等があった場合は、電子化文書の法的証拠能力が必要になります。 また、いわゆるJ-SOX法や会社法に定められている内部統制が確実に行われていることを、 内部監査や外部監査において明確化するためには、関連する帳簿や文書のトレーサビリティが重要になりますが、 その場合対象となる帳簿や文書には法的証拠能力が必要となります。

その法的証拠能力を確保するためには、帳簿や文書の原本であるか、 または証拠として採用し得る要件を満たした「謄本」(※8)である必要があります。

(※8)謄本(とうほん)
文書には、その証明力、証拠力(その証拠が裁判官の心証を満たす力があるかどうかの実質的「価値」を云う。 証拠が証明すべき事実認定に役立つ程度を表すことと同じ意味の言葉。) から4つのレベルがあります。

「謄本」とは原本を正確に謄写し、原本と同一であることを証明した文書のことで、裁判などに形式的証拠として提出できるレベルです。
「抄本」(しょうほん)は、原本の一部だけを抜粋して、それを謄写し、原本の一部と同一であることを証明した文書
「写し」とは作成者の意思に関係なく、原本を謄写しただけのもので、原本と同一という証明がない文書
「控え」とは作成者の意思により、原本の控えとして保管する文書のことを言います。

電子化文書の保管と管理に関する文書情報管理体制を整えた上で、管理責任者、実務責任者および利用者は、 各種文書の作成段階から保存、廃棄に至るすべての段階において、電子化文書がその組織内部の日常業務や管理運営上必要とされる時に、 電子化文書の「見読性」、「機密性」、「真正性」、「保存性」を確保しつつ、 当該電子化文書を迅速に利用できるよう規程を定め、協力して環境を整え適正な運営に努めなければならない義務があります。


※(お断り)
 下記は企業や行政向けのガイドラインですが、電子化文書の重要なポイントをわかりやすく説明しています。 このホームページでも、特に5章「電子化文書の脆弱性」と6章「電子化文書の保管と管理に関する注意事項」では、 要旨を変えない程度に管理組合向けに編集追記して引用しています。

(参考文献)
JIIMA電子化文書取扱ガイドライン 〜電子化文書の法的証拠能力の考え方に付いて〜
2010年10月1日 社団法人日本画像情報マネジメント協会 法務委員会