共同住宅法制改革の公共政策・総目次   【前頁】 1.公共政策概論  >  2.理事のための実務ガイド
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2.理事のための実務ガイド
     カナダ・オンタリオ州 「区分所有者保護法2015 」 (改正共同住宅法1998)

(法制改革の結果として生まれた「コンドミニアム所有者保護法2015」を早分かりで知っていただくために)

本頁の出典:
www.lashcondolaw.com/wp-content/uploads/2017/11/A-Practical-Guide-for-Directors-For-website.pdf
This guide provides general information on relevant changes to the Act.
Please consult the Act and the regulations in conjunction with this guide.


目次
2.理事のための実務ガイド(A-Practical-Guide-for-Directors」
 (1) 理事トレーニングの受講義務     (2) 理事になれる条件と資格失効条件     (3) 理事の告知義務
 (4) 区分所有者に対する報告義務    (5) 理事会の定足数                (6) 理事会のリモート会議
 (7) 組合員総会の定足数          (8) 議決権                      (9) 管理組合の登録と報告
 (10) 書類の保存期間            (11) 文書の閲覧請求回答期限        (12) 罰則

2.理事のための実務ガイド
   カナダ・オンタリオ州 「区分所有者保護法2015 」 (改正共同住宅法1998)

 

Lash / Condo Law

区分所有者保護法2015
理事のためのガイド 2017年11月改正版

「改正共同住宅法1998」が2017年11月1日に施行され、この改正により多くの重要な変更がありました。

このガイドは法の改定に関する一般的なおしらせです。詳細はこのガイドに関連する法令を調べてください。

管理組合理事は下記の事項を知っていなくてはなりません。


1.理事トレーニングの受講義務 (Director Training)

すべての共同住宅で2017年11月1日以降に選任、もしくは指名された管理組合理事には、 選任されて6ケ月以内に理事トレーニングの法定受講義務が課せられました。全理事は、 この法定トレーニング講習を期間内に完全に履修していなければ、理事としての資格を失います。

この受講履修資格は7年間有効です。期間経過後は追加のトレーニングを受けなければなりません。

理事トレーニング講習の履修範囲
1) 管理組合の基本的事項(Fundamentals of condo corporations)
2) 管理組合の法的な枠組み(The legal framework governing condos)
3) 理事会の役割の鍵・受託責任(The role of directors and their key responsibilities)
4) 財政管理と保険(Financial management and insurance)
5) 建物の修繕改修調達手順
   (Physical maintenance of the condo, modifications and procurement processes)
6) 区分所有者との情報共有(Information sharing with owners)
7) 共同住宅法3法と紛争解決機関(The three regulatory and dispute resolution authorities)

(注:共同住宅法3法とは)
コンドミニアムを購入して住むとき、所有者は3つの法律で守られます。
(1) Condominium Act (コンドミニアム法) 各区分所有者が管理組合を結成しオーナーとして運営することについて規定しています。
(2) Condominium Management Services Act (コンドミニアム管理業者規制法) 管理者及び管理業者が守るべき事項について規定しています。
(3) Ontario New Home Warranties Plan Act (新築住宅保証計画法)

除外規定:2017年11月1日以前に選任または指名された理事は、2017年11月1日以後に再任、 または再指名されるまでの期間は、この受講履修義務から除外されます。

2.理事になれる条件と資格失効条件 Directors’ Qualifications and Disqualifications

理事になれる条件
○ 個人であること・法人は不可。
○ 18歳以上。
○ 破産者ではない。
○ 被後見人ではない。また、精神衛生法による禁治産者ではない。
○ 裁判所から他人の資産を管理する事を禁じられた者ではない。
○ 法に基づく告知義務を遵守する者であること。(注2)

資格の資格失効条件
○ 破産者となった者。
○ 後見人決定法1992年法による被後見人、または、精神衛生法による禁治産者となった者。
○ 裁判所から他人の資産を管理する事を禁じられた者。
○ 先取特権を登記された後に90日以内に債務免除の決定を得なかった区分所有者
○ 理事に選任または指名後6ヶ月以内に必修トレーニング講習を履修しなかった者
○ 法に基づく告知義務を遵守しなかった者

※(注2) 管理組合は上記の理事選任資格及び就任後に上記の資格を失った理事の解任規定を管理規約に盛り込むことが義務化された。

3.理事の告知義務 Directors’ Qualifications and Disqualifications

  修正共同住宅法は、理事の告知義務を新たに追加しました。
  理事は、理事となるまえに、下記を告知しなければなりません。
○ 管理組合に関係する法的な訴えの当事者である場合、一般的な訴えの種類に係らず
○ 管理組合に関係する法的な訴えの当事者が家族の一員である場合、一般的な訴えの種類に係らず
○ 借家人または区分所有者の配偶者が管理組合に関係する法的な訴えの当事者である場合、一般的な訴えの種類に係らず
○ 過去10年以内に法に違反して有罪宣告を受けた者である場合、違反の種類に係らず
○ 管理組合に契約、或いは取引上の特別の利害関係を有する者または団体の関係者の場合で、
   購入者、抵当権者、区分所有者、借家人、通常の一般的利害関係の立場を超える場合
○ 管理費等の共益費を60日以上、滞納している場合
○ 区分所有者でない場合
○ 借家人で無い場合
   理事候補者は上記に該当する場合、選任投票前に理事会に告知しなければならない。
  告知された事実は本人の意思を考慮することなく公開されるものとする

いつ、どのようにして告知するか
告知は下記のようにして行われなければならない。
1) 理事会に対し、次期の選挙に理事として立候補する旨の届出を行ったとき、文書で告知する。
2) 集会において、理事選挙の候補者となったとき、口頭、または文書で告知する。
本人が集会に出席するかどうかにかかわらず、これらの情報は告知されなければならない。

理事の指名
もしも理事を指名された場合、管理規約に記載されている期間内に、必要な情報は理事会に対して告知されなければならない。

除外規定
2017年11月1日以前に選任または指名された理事は、2017年11月1日以後に再任、 または再指名されるまでの期間は、この告知義務から除外されます。

4.区分所有者に対する報告義務 Information Certificates

管理組合は区分所有者に対し規定期間内に下記の報告をしなければなりません。

1) (PICs): 定期的情報提供 (Periodic Information Certificates )
   いつ?:事業年度開始後第一四半期終了60日以内、及び、第三四半期終了60日以内
   何を?:管理組合の事業報告

2) (ICUs):適時情報提供 (Information Certificates )
   いつ?:きっかけとなる事案発生時(例えば、理事会の定員に欠員が生じたときは5日以内)
   何を?:管理組合の管理・サービス・保険に関する変更、更新、新たな連絡事項、理事会の欠員等

    注意 :理事会に欠員が生じた場合、残っている理事は、5日以内にICUを発行し、補充選挙のための
        集会を開催なければなりません。集会開催は区分所有者も要求できます。

3) (NOICs):新所有者への情報提供 (New Owner Information Certificate)
   いつ?:管理組合が新所有者届けを受付けた日から30日以内
   何を?:最新のPICとICU

4) 注意 (Notices)

管理組合が区分所有者に集会開催通知を出すときの事前の準備


集会開催日の35日前
・事前の通知
 ・開催の目的と内容・開催日時・候補者氏名・会議の注意事項・監事の指示した事項

集会開催通知書発送の1日前
総会参加権利者の
最終確定日

集会開催日の15日前
・集会開催案内
・定足数・候補者の情報・その他の情報

5.理事会の定足数 (Quorum at Board Meetings )

理事会の定足数とは、何人の欠員があるかに関係なく、現在の理事会メンバーの過半数のことです。

注意:理事会は定足数に欠員が生じた場合は、5日以内にICU(適時情報提供)として、 候補者選任集会の開催通知を発行しなければなりません。

理事会が欠員が生じてから15日以内に、この通知を発行しなかった場合は、区分所有者は規定に則った様式で、 理事会に開催要求を提出することができます。

また、区分所有者が組合員名簿、或いは、抵当権者名簿を用いて、 各所有者に通知を送付するよう要求することができます。

6.理事会のリモート会議 (Teleconference Board Meetings )

リモート会議やその他の遠隔通信手段による会議は、管理組合の全理事がその会議手段に同意していれば、 そのような手段で開催した理事会は法的に認められます。
この事は、管理組合は、もはや、管理規約で電子的手段による遠隔会議を認めることは必要ありません。

7.組合員総会の定足数 (Quorum Requirements at Owners’ Meetings )

改正法では、組合員総会での定足数の下限を規定しています。
権利変換集会(訳注:賃貸用途の建物を分譲共同住宅とする場合の所有権変換集会)や定期総会では
  1.第1次と第2次の集会では全区分所有者の25%以上の出席
  2.第3次以降の集会では全区分所有者の15%以上の出席

例外:
管理規約でいかなる集会も定足数を全区分所有者の25%以上の出席と定めても良い。

(訳注): 定足数の定義が日本とは異なります。この法律で定足数とは、決議に必要な全区分所有者に対する賛成比率のことを言います。 日本の区分所有法の普通決議では、半数以上が出席すれば定足数を満たして総会は成立し、その中の過半数が賛成すれば、 議決は成立します。つまり、全区分所有者の半数の半数は25%で同じになりますが、最初から 賛成者が全区分所有者の25%集まれば、それで総会は成立するー総会は形ではない、実質の決議が主という考え方です。

8.議決権 (Voting )

誰が投票できる?
  共同住宅法46条第1項の規定では、管理組合の組合員名簿搭載者のみが議決権をもっています。
  この規定では、組合員は管理組合に氏名を届け出る義務があります。

投票の方法:
投票は下記のいずれかで行う
 1.本人または代理人の挙手
 2.下記による記録投票
   ○ 本人または代理人が投票用紙に記入して投票(訳注:議決権行使書を含む)
   ○ 代理人を指定する(訳注:議長を代理人に指名する方法を含む)
   ○ 規約で許されている場合、電話や電子的手段で意思を示す

注意:“電話や電子的手段“の意味は、電話や他の電子的手段又は、情報やデータを変換する技術的手段であって、 電話やfax,E-メール、プッシュ式タッチトーン電話システム、パソコンやコンピュータネットワークを含みます。

注意:代理人は現在、標準化された委任状が用いられています。

9.管理組合の登録と報告 (Returns and Notices)

すべての管理組合に登録と毎年の報告が義務付けられました。
登録用紙に記載されている管理組合全般の全項目にわたって回答しなければなりません。
 (訳注) (とは言っても、わずか10項目で、東京都条例の40項目に比べたら、比較にならない。(※1参照

 1. 最初の登記(新設の管理組合):
   2018年1月1日以降の新設の管理組合は、管理組合が創立された日から90日以内に遅滞なく
   登記官に対して管理組合の登記申請をしなければなりません。
 2. 権利移転管理組合(新設の管理組合):2018年1月1日以降にターンオーバー(訳注:賃貸建物を
   分譲して共同住宅とした場合)により設立した管理組合は、ターンオーバー総会によって管理組合の
   理事を選任した日から90日以内に遅滞なく登記官に対して管理組合の登記申請をしなければなりません。
 3. 年次報告(すべての共同住宅):すべての管理組合は、毎年1月1日から3月31日の間に、
   登記官に対して管理組合の年次報告と登記申請をしなければなりません。
   その管理組合が3月31日以降に設立された場合、管理組合が創立した日から90日以内に遅滞なく
   登記官に対して管理組合の年次報告と登記申請をしなければなりません。

※1 (訳注) 東京都条例(2021年4月1日施行:対象:昭和58年12月31日以前新築の1万4千棟に限定)
「マンション管理状況届出書」の登録項目
マンションの概要(9項目)・管理不全を予防するための必須事項(7項目)・適正な維持管理に関する事項(8項目)
マンションの社会的機能の向上に資する取組に関する事項(12項目)・連絡先(4項目)   合計40項目

10.書類の保存期間 (Record Retention Periods)

修正法では、文書を主要文書(コア・レコード: core records)と
非主要文書(ノン・コア・レコード: non-core records)に分類し、 各々の保存期間を次のように定めました。

# Core-Record
1. Declaration, by-laws, rules, shared facilities agreements
2. Budget for current fiscal year
3. Most recent approved financial statements
4. Most recent reserve fund plan
5. Performance Audits
6. Record of owners and mortgagees
7. Information Certificates
8. Minutes of owners’ and board meetings held after November 1, 2017
9. Any other record required by a by-law, if applicable

Retention Period
Unlimited
7 years
7 years
Unlimited
Unlimited
7 years
7 years
Unlimited
As per by-law

11.文書の閲覧請求回答期限 (Process for Examining Records )

管理組合に文書の閲覧請求がきたときの対応が新しく規定されました。

 文書の閲覧請求 −−> 理事会の回答(30日以内)−−> 要求者の応答−−−−>文書の閲覧または  
                                   (経費の支払・共に60日以内)    裁判所(CAT)に提訴

文書の閲覧請求に対して、非主要文書(ノン・コアレコード)の場合は、理事会は30日以内に請求者に対して回答しなければなりません。 主要文書(コアレコード)の場合は、電子媒体で30日以内に請求者に対して提供しなければなりません。

請求用紙及び回答用紙はいずれも標準の定型様式を用います。
文書の閲覧請求権は、区分所有者または購入者・抵当権者の個人の利害に関する情報に関しては、適用されません。

閲覧請求に係る文書のコピー代は、頁あたり20セントを越えない範囲で、 管理組合から請求者に見積明細書が提示されるものとします。

請求文書の費用は下記を考慮して決定するものとします。
 1) 主要な文書(コアレコード)か
 2) 閲覧かコピーか
 3) 保管文書は電子化されているか、紙文書のままか
 4) 請求文書は編集を必要とするか(訳注:請求者以外の個人情報に関係する部分はマーキングする必要がある)
 5) 文書提供のために費やされる時間
 管理組合は実費のみ請求することができます。

下記は、請求者が途中で閲覧請求を放棄したとみなします。
 1) 理事会回答日から60日以内に請求者から応答がないか、または経費の支払が無い場合
 2) 閲覧請求に対する解決を求めて理事会回答日から60日以内にコンドミニアム裁判所(CAT)へ提訴する場合
 3) 理事会が請求者に回答せず、請求者が請求日から6ケ月以内にCATに提訴しない場合

12.罰則 (Penalty for Non-Compliance)

管理組合が法令を順守しない場合、法第55条第3項の規定に従って、5000万ドルを限度として罰金の支払を命じられることがあります。
もしも、管理組合が支払わなかった場合は、区分所有者が毎月支払っている共益費の総額から罰金を支出することになります。

(2021年8月28日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 28 August 2021/ Revised Publication -time to time)