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2.5 日本版SOX法 ( 管理組合との関連)

管理会社のSOX法対応

管理組合の財産管理を委託されている管理会社の内部統制に関する話です。
管理組合の内部統制に関しては 4.2 管理組合監査 で詳しく述べています。

国交省から適正化法違反で摘発された管理会社は、 国交省に「今後、法令遵守の体制を整備し、再発防止を徹底します」という「始末書」を出せば処分はそれで終わりです。

国内だけで通用する儀式的・形式的ルールですが、 これが外部に公表する自社の財務諸表に関する不祥事となるとそんな簡単なものではありません。それがSOX法です。

但し、SOX法の対象は投資家保護を目的とした「財務報告」に関する法規制ですから、 上場している管理会社の従業員が預かっている管理組合の会計に関して不祥事を起こしたところで、 その従業員を処分して組合に損害を弁償すれば済む話で、別にどうってことはない。

SOX法への対応をとっているはずの上場管理会社で、会計を委託されている管理組合相手に不祥事を起こすのは、 SOX法への対応は見かけだけで、実際には何もしていないことを露呈しているようなものですが、 「マンション管理適正化法」にはそんな規定はない。多分、スジ違いだと一蹴されるでしょうね。

内部統制報告書の提出・監査に関しては、2009年(平成21年)3月期の本決算から上場企業およびその連結子会社を対象に義務化されています。

財務報告に関する内部統制の有効性の評価は、作成している連結財務諸表を構成する連結子会社、持分法適用会社が対象です。

例えば、○○不動産株式会社の連結子会社である○○不動産建物サービス株式会社というような「分譲会社の子会社である管理会社」も対象です。

更に、委託業務も評価範囲の対象になります。経理や財務業務の一部又は全部を外部に委託している場合、 自ら委託会社の内部統制を評価することが必要であり、委託会社が自ら行っている内部統制の評価結果を利用する場合には、 十分な証拠を提供しているかということを検討しなければなりません。

管理組合が会計業務を含む基幹事務を管理会社に委託している場合、 管理会社がどのような法令遵守・不正防止の内部統制報告書を出しているか 、そして、その報告書の通りに実行されているかをチェックすることが必要である・・・とはいっても、 マンション管理適正化法にはそんな規定はないから、実際にはやらない。 管理会社の監督は国交省がやる建前になっているが、実際にはやっていない。

「行政が業者を監督し、消費者がその恩恵を受ける」という幻想のシステムは、 一方で業界団体に補助金と天下りという昔ながらの護送船団行政を持続させることができるし、 現に、いまだに続いている。

国内でのみ通用するこんな虚構のシステムはとうに破綻しているが、国内だけの閉鎖的な市場ではまだ続けられる。 しかし、市場経済のボーダーレス化・グローバル化の波に襲われた会計と金融の分野では護送船団行政は実質的にも破綻し、ビッグバンに突入した。
  護送船団行政と愚かな経営者の悲劇 (大阪地裁判決)

日本版SOX法も、フリー、フェア、グローバルを目指した会計ビッグバンや企業の社会的責任(CSR:corporate social responsibility)が厳しく問われるようになった時代背景の流れの中で誕生したものです。 それではあらためて、SOX法とは何かというところから、はじめましょう。

1 日本版SOX法とは

日本版SOX法とは、すべての上場企業が正確な財務報告を行うように社内体制を整備する「内部統制」について定めた法規制を指しています。

相次ぐ会計不祥事やコンプライアンスの欠如などを防止するため、米国のサーベンス・オクスリー法(SOX法)(注1)に倣って整備された 日本の法規制」(J-SOX)のことで、上場企業およびその連結子会社に、会計監査制度の充実と企業の内部統制強化を求めています。

(注1)サーベンス・オクスリー法(The Sarbanes-Oxley Act)は、エンロン事件をはじめとする米国企業の会計不祥事の続出に対して、 米国政府が制定し2002年7月に成立した企業改革のための法律のことで、 ポール・サーベンス上院議員( Senator Paul Sarbanes)と マイケル・オクスリー下院議員(Representative Michael Oxley)が法案を提出したことから、両氏の名前が通称に用いられています。 正式な法律名ではありません。

「日本版SOX法」という呼び名も通称で、実際には2006年6月に成立した証券取引法の抜本改正である「金融商品取引法」の中の コンプライアンス規定のことを指しています。同法では第24条の4の4で「有価証券報告書を提出しなければならない会社のうち、 金融商品取引所に上場している有価証券の発行者である会社その他の政令で定めるものは、事業年度ごとに、 当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制について 評価した報告書(内部統制報告書)を有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならないこととする。 また、内部統制報告書には、公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならないこととする」と定めています。

2 日本版SOX法の経緯

日本版SOX法の経緯

2003年4月  改正商法施行(委員会等設置会社の内部統制システム構築が義務化)
 

内閣府令第28号施行(コーポレートガバナンス、内部統制事項の開示が義務化、代表者確認書の任意添付)・米国SOX法 第302条の「経営者による宣誓書」に倣った制度

2004年4月  監査法人を監視・監督する「公認会計士・監査審査会」が発足
2005年1月

東京証券取引所が有価証券報告書等の適正性に関する確認書、適時開示に係る宣誓書を義務化

2005年6月

会社法成立(大会社の内部統制システムの基本方針策定が義務化)

2005年7月

金融庁(企業会計審議会内部統制部会)が「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(公開草案)」を公表

2005年8月

経済産業省が「コーポレートガバナンス及びリスク管理・内部統制に関する開示・評価の枠組みについての指針」を公表

2005年12月

金融庁(企業会計審議会内部統制部会)が「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」を公表・監査法人が企業の内部統制システムをチェックする際の基準に関する方針を示したもので、これが想定する制度では「経営者が実施した内部統制の評価」について公認会計士が法定監査(財務諸表監査)の一環として監査を実施することとした。この前提となっている内部統制の枠組みは米国の「COSOフレームワーク」をベースにしたものだが、もともとのCOSOフレームワークの5つの構成要素のほかに「ITの利用」(IT統制)が加えられている。

2006年5月 会社法施行
2006年6月

「証券取引法等の一部を改正する法律」「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が成立・2007年9月30日に完全施行となった。内部統制報告書の提出・監査に関しては、附則第15条で「平成20年4月1日以後に開始する事業年度から適用する」と定めており、2009年(平成21年)3月期の本決算から上場企業およびその連結子会社を対象に適用となる。

2007年2月

金融庁 企業会計審議会、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」(基準)、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(実施基準)を金融担当大臣に提出

2007年4月

金融庁、金融商品取引法制に関する政令案・内閣府令案等を公表

2007年5月

金融庁、証券取引法等の一部を改正する法律の施行等に伴う関係内閣府令案を公表

3 企業におけるコーポレートガバナンスの議論の経緯

2005〜08年頃

株主アクティビズムとコーポレートガバナンスの時代(企業は誰のものか)
西武鉄道の「株主の状況」不実記載問題(2004年10月)
カネボウ(2005年9月)、ライブドア(2006年1月)の有価証券報告書虚偽記載問題のあと
2006年6月に日本版SOX法とも言われる金融商品取引法が成立

2010〜12年頃

企業不祥事、コンプライアンス(法令順守)とコーポレートガバナンスの時代

2013〜14年頃

成長戦略とコーポレートガバナンスの時代
「日本再興戦略」改訂2014(日本の『稼ぐ力』を取り戻す)施策の一つとして「コーポレートガバナンス の強化」が掲げられ、コーポレートガバナンス改革と成長戦略が結び付けられた。

2015年以降

「コーポレートガバナンス・コード」の策定が改革の最重要施策
日本企業のROE が10%の「壁」を突破できるか

4 管理組合とコーポレートガバナンス

 

管理組合のアカウンタビリティ(説明責任)については 「1.2 会計と説明責任」 を参照。

管理組合のコンプライアンス(法令順守)については「1.1.3 管理組合の資金を狙う犯罪」 を参照。

管理組合の内部統制については 「4.2 管理組合監査」 を参照。

5 制度を形式的に整えても不祥事は防げない

監査法人の責任

 今も米国の企業統治史上最大の事件といわれる2001年エンロン事件で財務を監査していたのは大手監査法人アーサー・アンダーセンだったが 未曾有の会計不正を阻止できず、事件後アーサー・アンダーセンは解散した。  2015年東芝粉飾決算問題で米国の株主が集団で提訴するようですから、東芝の財務を監査していた監査法人は今後どうなるのでしょうね。

社外取締役の責任

 日本でも社外取締役の採用を促す会社法の2015年改正が施行され、東京証券取引所でも上場企業に2人以上の社外取締役を求める企業統治指針を定めた。 2015年の株主総会では1部上場企業の9割以上が社外取締役を選任し、2人以上を選任した企業は2014年の約3割から6割以上に急増しているが、実態は グループや親密企業のトップを相互に社外取締役に据えたり、組織統治や経営の経験もない弁護士や大学教授を名目上の社外取締役に任命するなど、 経営への干渉を嫌う経営陣にとって都合のいい「物言わぬ形式的な社外取締役」となっているのが実情だ。

こんな社外取締役を増やしても企業の不祥事は防げない。会計不正を行っていた当時のエンロンでも、17人の取締役のうち15人が社外取締役だった。 2015年、不適切会計が発覚した東芝、16人の取締役のうち社外取締役は4人にとどまり、それも主に元外交官や大学教授を起用していた。

東芝は経営の透明性を高めるため、2003年に執行と監督を分離する委員会設置会社に移行した。それでも企業統治の機能不全が起きた。

社外取締役には3つの役割がある。
(1)株主の立場を代表すること (2)企業の不祥事を阻止すること (3)収益力を向上させること
社外取締役の人選を誤るといずれも機能しなくなる。
ドイツでは監査役会が執行役の任命、罷免の権限を持つが、監査役と執行役を兼任することはできない。 また、大企業では労働組合代表が監査役会メンバーになることが義務化されている。

不正会計は制度だけで阻止できる問題ではなく、結局は経営者のモラルに行き着く。