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第5章 地震時管制運転装置が作動しない
5.1 地震感知器の設定変更の問題点
国土交通省は2005年7月23日千葉県北西部地震で首都圏での閉じ込め被害が発生したことを受け、同装置が感知・作動した後の自動リセットのかかるレベルを現行の60m建物での150gal以下の基準よりも上げる方針であるとの一部新聞報道がありました。
同地震ではエレベーターや走行路に被害がなく、閉じ込め被害が揺れによって扉が開いたと検知したことによるものが殆どであったことから、停止後,自動運転する加速度感知レベルを上げれば、閉じ込め事故は減らせるはずとの論理ですが、加速度(gal)の値だけで地震の挙動を予想するのは無理があるため、
単純に加速度設定だけを上げるということにはならないでしょう。
エレベーターの運行よりも、もっと重大な例を挙げます。
2005年8月16日11時46分宮城県沖で起きたM7.2の地震の際、東北電力女川(おながわ)原子力発電所の1号機、2号機、3号機の全ての発電機が「地震加速度大」のスクラム信号により自動停止しました。同発電所で記録された地震波(岩盤上での周期0.05秒の地震波)が888galに達し、「設計用限界地震」と呼ばれるほとんど起こりえない規模の地震を想定した基準の最大値673galを超えていた為、
経済産業省原子力安全・保安院は、想定より小規模な地震によって、想定外の揺れを記録したことを重視し、調査が終わるまで同原発の運転再開を認めない方針を出しました。
*2) 東北電力は、1984年の営業運転開始から20年以上たっていることを踏まえ、設備の劣化の影響の有無を調査,2006年4月中に結果をまとめ、耐震安全性評価結果と併せて国に報告する予定
*3) 原子力安全・保安院は2005年(平成17年)12月22日報告書「東北電力株式会社女川原子力発電所において宮城県沖の地震時に取得されたデータの分析・評価及び同発電所の耐震安全性評価に関する検討結果について」(PDF)で、問題はなかったと発表。その後、同発電所は運転を再開した。
*1) 石川県志賀町の北陸電力志賀原発2号機(改良型沸騰水型炉=ABWR、出力135万8000キロワット、2006年3月15日に国内55基目の商業用原発として営業運転を開始)をめぐり、16都府県の132人が、北陸電力を相手取り、運転差し止めを求めた民事訴訟で2006年3月24日、
金沢地裁・井戸謙一裁判長は「電力会社の想定を超えた地震動によって原発事故が起こり、住民が被曝(ひばく)をする具体的可能性がある」として北陸電力に対して志賀原発2号機の運転を差し止める判決を言い渡しました。
判決理由として、国の地震調査委員会が原発近くの邑知潟(おうちがた)断層帯について「全体が一区間として活動すればマグニチュード7.6程度の地震が起きる可能性がある」と指摘したことを挙げ、「電力会社が想定したマグニチュード6.5を超える地震動が原子炉の敷地で発生する具体的な可能性があるというべきだ」としました。
但し、判決の内容を即座に実行できる仮執行宣言はついていないので、判決が確定しない限り、実際に運転が止まることはありません *1)。
第2章の気象庁の周期と加速度の関係における震度のVカーブを見てもらえばわかりますが、計測震度7の下限値6.5以上になるためには、周期1秒で約600gal以上の加速度になります。これが周期0.1秒では2700gal以上、0.05秒では10,000galに達します。
計測震度は加速度及び、ゆれの周期と継続時間で決められます
国の原子力安全審査基準や耐震設計審査指針が加速度の値だけで決められているとは思いませんが、上に述べた二つの原発の例でも、基準そのものの妥当性が問題になっています。
エレベーターについても同じことが言えます。つまり、加速度の設定だけの問題ではなく、地震動周期や速度もまた問題になってきます。
地震動を受けたエレベーターで加速度ではなく周期が問題になった例―( 長周期地震動 )―を次の5.2で説明します。
(参考)
地震の大きさの単位(マグニチュード、カイン、ガル、震度)
地震の規模(エネルギーの大きさ)=マグニチュード(M)>
震源から放出される地震波のエネルギーの大きさを示します。
震源の真上の地表(=震央)までの距離 Δ(km)の位置に設置した地震計の波形の片振幅をA(ミクロン)の単位で読みとり、これを次の対数式で求めた数値がマグニチュード(M)です。
M=log10A+1.73log10Δ-0.83
その地震の規模を表す固有の値になります。
ある地点での地震動の速度=カイン(kine)
一秒間にどれだけ変位したかを観測し、これを地震動の速度としてカイン(kine)で表します。( 1kine=1cm/sec )
阪神淡路大震災では最大秒速 92cmの変位、つまり92カインが観測されました。このときの加速度は818ガルでした。
大きな加速度でもその継続時間が短ければ、速度は大きくならず、建物被害も少ないのですが、加速度が小さくても、継続時間が長ければ、速度は大きくなり、建物の被害も大きくなります。と言うわけで、地震動の破壊力を示す大きさとしてカインを用いて表すことが多くなりました。
建築でも一般高層ビルは速度応答スペクトルで25カイン以上の地震動に対して無損傷であるものとし、50カイン無損傷レベルを免震建築、100カイン以上での無損傷レベルを高性能免震建築と呼んだりします。
ある地点での地震動の加速度=ガル(gal)
車が急発進したり、地震で地面が急に揺れるとつんのめる感じになりますね。これは揺れによって建物や人に加速度が働いたからです。1gaは1秒につき毎秒1pの速さの変化を生ずる加速度をいい、振動の激しさをあらわす数値として使われます。
( 1gal=1cm/sec2 ) 言い換えると地震の伝播速度が毎秒1cm(=1カイン)ずつ早くなる加速状態を1galとしています。(地球上で空気の抵抗がないときの自由落下速度は毎秒980カインずつ増していく。つまり重力の加速度1G=980ガル)関東大震災の時がおよそ330ガル、阪神大震災では最大800ガルと言われています。
ある地点での地震の揺れの大きさ=震度
ある地点の揺れは、震源から放出される地震波のエネルギー(マグニチュード)と、震源からその地点までの距離、震源の深さ、伝播経路、その地点周辺の地盤条件などで決定されます。
震度は測定点での地震波形から加速度、周期、持続時間をもとに計算されます。
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5.2 長周期地震動
ー長周期地震動で、地震時管制運転装置が作動しないー
地震時管制運転装置が長周期地震動の揺れに反応せず、運転を続けたため主ロープが切れるという事故が発生しています。
2004年10月23日17時56分に新潟県中越地方においてM6.8の地震が発生しました。
震源地近くのK-NET小千谷観測点では、最大1500ガル、130カインを超える震動を観測しています。
このとき震源から約200km離れた東京都港区の六本木ヒルズ森タワー(54階建て、高さ238メートル)の67基あるエレベーターのうち、6基が機器が損傷したりワイヤが絡まったりして停止、うち2基で乗客1人ずつが一時閉じ込められました。
このうち1基は、8本あるワイヤの1本(直径約1センチ)が側壁にある電源・信号用ケーブルを留める金具にひっかかり、強く引っ張られて切れていたことが判明、残り7本のワイヤに損傷はなく、安全性に問題はなかったといいます。損傷したエレベータの復旧には最長で約1ヶ月かかっています。
全67基に地震時管制運転装置がついていましたが、少なくとも異常のあった6基ではP波感知器及びS波感知器とも長周期地震動を感知せず運転が続き、最終的には非常停止装置が作動し、止まったということです。
この地震による閉じ込め事故は森タワーだけではありません。
この新潟県中越地震でエレベーターの閉じ込め事故は地震の中心地域では全稼動台数855台中0件、新潟県周辺地域で5,337台中1件なのに、遠隔地では226、269台中11件発生しており、その殆どが東京都で発生したものです。(226、269台中、地震時管制運転装置の設置数は133、301台、この装置が地震で動作したのは7,037台(動作率5.3%)という低さでした)
建物や構造物は大きさなどによって揺れる周期(固有周期)が決まっており、一般的に建物が大きいほど固有周期も長くなります。
固有周期と地震の揺れの周期が一致すると、共振して建物の揺れが増幅されます。
森タワーも長周期の揺れに共振し、ワイヤが大きく揺さぶられて被害が出たと森ビルはみており、既に高層階用28基のワイヤの揺れを抑える金具などを取り付けて対応したとしています。
森タワーではその後、東京で震度5強を記録した2005年7月23日千葉県北西部地震では短周期の揺れが強く、地震時管制運転装置が作動し、エレベーターが停止したため、機器の損傷はなかった模様です。
長周期地震動が発生した条件
(1)マグニチュードが6.8と大きかったこと。マグニチュードが大きいほど、震源から放出される地震波には長周期の成分が多く含まれます。
(2)関東平野には厚さ数kmに及ぶ堆積層が存在しており、このような厚い堆積層は、地震波に含まれる長周期成分を増幅するという効果を持っています。
(3)長周期地震動の地震波は短周期地震動の地震波に比べて、震源から遠くへ伝わってもなかなか小さくならないという性質を持っています。これが震源から約200キロ離れた地域で超高層ビルの固有周期と揺れの周期が一致し、共振して揺れが増幅されたと推定されます。
国土交通省の社会資本整備審議会は、地震の際にエレベーターが自動停止、運転再開する基準について、早急な運転再開のため現行の震度4程度から震度5弱程度に引き上げる方向で検討を進めているが、仮に震度3程度の揺れでワイヤが切断したとすれば、基準の引き上げに慎重にならざるを得ないため、最新の高層ビルのエレベーターで、震度3程度の揺れでワイヤが切断された事態を重視しています。
(注) この「震度4程度から震度5弱程度に引き上げる」と言っている震度が、実際には「震度に相当する1秒周期付近での加速度」を検知しているに過ぎないということに注意してください。
中央防災会議は2004年12月にまとめた東南海・南海地震対策大綱で、「長周期地震動対策」を重点の一つに取り上げました。土木学会と日本建築学会も2005年から共同で研究を開始、本格的な検証はこれからとしています。
*1) 森ビル株式会社では新潟県中越地震の後、長周期地震動の研究・開発を進め、2005年10月より、六本木ヒルズ森タワーにおいてオーチス社が海外の超高層ビルの風揺れに対して実績のあったシステムを日本で始めて導入し、これを応用した「長周期地震動検知システム」を稼動させています。*1)
長周期地震動とは
数秒から十数秒の周期でゆっくりと揺れる地震動。2003年9月の十勝沖地震(M8)で、北海道苫小牧市のナフサタンクで長周期地震動によるスロッシング(液面の揺れ)が引き金になって大規模火災が発生しました。
予想される東海地震や東南海地震では、巨大タンクや高層ビルが被害を受ける新たな災害が懸念されています。東海や東南海地震では、高層ビル上層部の振幅は数メートル以上になる可能性もあります。地震発生源に近いところの被害だけではなく、遠方で発生する大地震に対しても長周期地震動による影響の確認と対策が超高層建物の新たな課題として必要になってきました。
超高層ビルの新たな課題(*3)
日本の超高層の建物はしなやかで粘り強い柔構造であり、建物を変形させて地震のエネルギーを吸収しています。このため、長周期地震動の場合、固有周期が長いため長周期地震動と共振して長時間揺れ続けます。
また、建物は上層階になるほど大きく変形しますが、50階建ての建物の場合、大地震時に最上階での加速度は最大300gal程度、左右2m程度の揺れ幅になると予想されています。
長周期地震動の被害が予想される超高層ビルは2009年8月現在、全国に50棟以上あると言われています。
超高層ビルの長周期地震動の揺れを抑制する対策(*3) 低層階に、ビルの揺れを抑制する特殊なダンパー(緩衝器)を設置する改修工事など、長周期地震動の共振を十数秒から数秒に低減できる対策がゼネコン各社から提案されています。
(例えばオイルダンパーと回転慣性質量ダンパーを組み合せ、地震のエネルギーをダンパー内部の重りの回転運動に変えて、ビルの揺れを抑制するしくみなどで地上30階建てのビルの場合、工事費は10億円程度。)
エレベーターの長周期地震動対策(*3) 1.)根本的な対策としてロープへの振れ留めを施す。
2.)長周期地震動は到達までに時間がかかるので、従来の管制運転と
「緊急地震速報システム」を連動させ、自動的に停止させる。
3.)緊急地震速報を利用して、回避行動や避難をスムースに行う。
4.)避難、誘導のための標示サインを整備。
5.)避難、誘導マニュアルを整備 などの対策が必要となります。
(マンションNPO 昇降機検査資格者2005/9/03 掲載)
(*1) 2006/04/02 (追記)
(*2) 2006/04/07 (追記)
(*3) 2009/08/15 (追記)
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